研究概要 |
硬X線自由電子レーザー用ビームスプリッタとして開発を行っている薄いシリコン結晶は, 短期的であれば非常に高い回折性能を示していたものの, 長期間X線にさらし続けた際高品質領域の縮小が確認された. 長時間の安定性は応用上極めて重要なパラメータである為, 原因の解明を試みた. 原因は主に2つ考えられ, 1) X線の吸収による局所的な温度分布, 2) X線照射による表面の活性化, 膜形成が挙げられた. 冷却・加熱ならびにHe雰囲気へのパージが可能なサンプルホルダーを開発し, X線反射像の経時変化を観察した結果, 雰囲気温度に関係なく, 大気雰囲気下においてX線を照射した際に高品質領域の縮小が確認された. 分光エリプソメトリによりX線照射後の結晶表面の酸化膜厚を測定した結果, 自然酸化膜の倍近い膜厚が示され, X線照射により結晶表面が活性化され酸化膜が成長, 膜応力により格子面がたわんだと考えられる. 作製だけでなく使用自体に高い技術力が要求されるビームスプリッタ使用法としての1つの有意義な知見を得ることに成功した. 続いて, X線による時分割測定に向けて開発を行っている分割・遅延光学系(オートコリレータ)に必須となるチャネルカット結晶の開発を行った. 加工の困難さから一般的なチャネルカット結晶内壁部には研磨由来のスクラッチが多数含まれており, 反射光のコヒーレンスの劣化やスペックルの要因となる. ビームスプリッタ作製において実績のある大気圧プラズマによるエッチングを施すことで, 表面ダメージの除去を試みた. 側面部にプラズマを局在化可能な装置を開発し, 基本的な加工特性の調査を経て, 実際に使用されるチャネルカット結晶に対して適用した. SPring-8において反射像を確認した結果, プラズマ処理前後において明らかな結晶性の改善が確認された. チャネルカット結晶の利用は現在開発が検討されている同様な光学系においてワールドスタンダードとなりつつあり, 本研究において開発された高品質チャネルカット結晶は今後のXFEL科学の発展において極めて重要な光学素子になると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記した通り, X線の分割・遅延ユニットであるオートコリレータを構築する上で必須となるチャネルカット結晶の作製には成功した. SPring-8のビームタイムが当初予定していたよりも短かった為未だプロトタイプを用いた実験は行えていないものの, ビームスプリッタ結晶作製プロセスの改善や, オートコリレータ本機の設計, 応用実験の実現可能性の検討等を繰り上げて昨年度に進めることが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
オートコリレータの設計, 応用実験の実現可能性の検討を進めると共に, SPring-8においてプロトタイプ光学系を用いた実験を行い, スループットや達成可能時間分解能, 供給されるX線のコヒーレンス等を評価する. これまでの検討によって, オートコリレータには極めて高い角度安定性が必要であることが予測されており, 要求精度を満たす光学系の設計やアライメント方法の検討をより綿密に行う必要がある為, 国内外の共同研究者達と議論を交わし, 今年度中に光学系の構築, X線自由電子レーザー施設であるSACLAにおいてコミッショニングを開始する予定である. また, 同時に将来のビームスプリッタ結晶としてダイヤモンド単結晶に対する加工特性の評価も進めようと考えている.
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