研究課題/領域番号 |
13J00898
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大坂 泰斗 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | X線自由電子レーザー / 分割・遅延光学系 / 結晶光学素子 / 超高速科学 |
研究実績の概要 |
硬X線用分割・遅延光学系(XSDO)と集光ミラー光学系とを併用した際の許容アライメント誤差を幾何光学計算に基づき検討した. XSDOにアライメント誤差が存在する場合,分割ビームそれぞれの実効的光源位置に誤差が生じる.一般的なX線集光ミラー光学系は一次元の楕円形状ミラーを直行配置しており,楕円の第一焦点に相当する光源位置が異なる事で,第二焦点に相当する集光点において誤差が生じる.実効的な光源位置を重複させる為には,分割ビーム間の角度・空間誤差の両方を抑制する必要がある.SACLAの集光光学系に基づき許容誤差を検討し,光源位置誤差を15 μm以下,約0.1 μradの角度安定性が必要である事を導出した. XSDOを構築し,SPring-8 BL29XULにおいてアライメント手法の検討を行った.使用したビームラインには回折限界集光径100 nm以下の集光ミラーが常設されており,XSDO併用時,集光面における分割ビームの空間重複を試みた.能率的にアライメントを行うため,XSDO構成素子それぞれの役割を限定した.2つのチャネルカット結晶を通過する分割ビーム1は,原理的に元々の光軸と完全に平行なパスを伝播する.一方,独立的な4つの結晶を通過する分割ビーム2は,それぞれの結晶面に相関が無い為,位置・角度共に誤差が生じ得る.パス2における上流側3つの結晶素子の調整により,最後の結晶上でそれぞれの分割ビームを空間的に重複させた.そしてビーム2の角度の調整は最後の結晶の角度調整のみによって達成した.その結果集光面において,水平・鉛直両方向に対して30 nm以下の位置誤差にまで抑制する事に成功した. 本結果はXSDOと集光ミラー光学系との複合システムによるX線ポンプ・X線プローブ実験の高い実現可能性を示すものであり,X線を用いた超高速科学研究に対してブレークスルーをもたらすと期待される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
硬X線分割・遅延光学系の実現に向け,昨年度は結晶光学素子の開発を行った.本年度では,開発した素子を用いて分割・遅延光学系を構築し,SPring-8において集光光学系併用時の分割ビームの空間重複を達成した. 当初の予定では,SPring-8における実験は予定されていなかったものの,ドイツのDESYやアメリカのLCLSとの共同研究によって,アライメントの重要性,困難さを実感したことで,高精度・高能率なアライメント手法の実証実験をSPring-8において実施した.本実験により,SACLAにおいてもスムーズに分割ビームの重複が達成されると考えられ,当初の予定に追いつくと考えられる.また,開発した素子の問題点等も発見し,より性能の高い素子の開発にもつながった事で,SACLAにおいて画期的な成果につながる可能性が高い.
|
今後の研究の推進方策 |
アライメント手法を確立させた分割・遅延光学系を使用し,SACLAにおいて物質の破壊過程の解明を試みる.SACLAの集光システムを用い,金等の結晶性ナノ粒子に遅延を設けた分割ビームを照射する.申請者が開発を行っている分割・遅延光学系は,X線の波長スペクトル分割に基づいており,異なる中心波長を有する分割パルスが供給される.ポンプパルス(1つ目の分割パルス)の光子エネルギーを試料の吸収端付近に設定する事で,試料との相互作用を大きくする.また,プローブパルス(2つめの分割パルス)由来のブラッグ回折スポットのみを抽出し,遅延時間依存性を調査することで破壊ダイナミクスの解明を目指す. 上記実験を行う為の実験システムを構築する.集光光学系下流に,広角散乱観察用の2次元検出器を配置する.また,スペクトロメータによって入射X線のスペクトル強度分布をショット毎に取得し,各分割ビームの強度を独立的に測定する. 並行して,ダイヤモンドに対して大気圧プラズマ加工を施し,加工特性を調査する.ダイヤモンドの薄化が実現すれば,分割・遅延光学系の更なる高効率化が可能となる.
|