視覚的な不快の機序や視覚-他感覚-運動協応について,視覚-前庭感覚に特異性のある片頭痛患者および健常者において検討した。 視覚的不快を誘発しやすい画像は空間周波数中域成分を多く含むこと,ならびに神経学的に起こされる特異な知覚特性が絵画に現れることが知られていた。本研究は,画像解析により,視覚的不快を感じやすい片頭痛患者が描く絵画に不快関連の空間周波数特性が現れることを示した。片頭痛患者は視覚的不快を感じやすいだけでなく,不快やそれに関わる空間的特性を創作に応用することが示唆された。 蓮の花托のような集合体に嫌悪を呈する者がいる。集合体嫌悪の個人差が示唆されていたものの個人差を調べる心理尺度の日本語版はなかった。本研究は集合体嫌悪質問紙の日本語版を開発した。これを用いて集合体嫌悪の個人差は嫌悪感受性や共感性から説明されることを示した。 片頭痛患者は乗り物酔いをしやすいことから,平衡機能が強く視覚依存であることが指摘されていた。また患者は運動錯視を知覚しやすいことも指摘されていた。本研究は,片頭痛患者では運動錯視が身体平衡を乱しやすいという仮説を検証するために,運動錯視観察時の身体動揺を片頭痛患者と健常者で比べた。結果,運動錯視の残効が片頭痛患者の身体動揺を増すことが示唆された。 運動とその視覚フィードバックが時間的に不整合であると自己身体感覚 (所有感) と運動感覚 (主体感) が壊れる。本研究は所有感・主体感と時間感覚の関連を健常者で調べた。運動とその視覚フィードバックの時間的不整合に曝され続けると,順応して不整合に気づかなくなることがあり,順応下では主体感は維持される一方で所有感は損なわれることを示した。次に,運動と視覚フィードバックの時間的整合を変化させて主体感を増減させた実験により,主体感が損なわれる間は時間を実際より短く感じることを示した。
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