前年度までに、ナノマテリアルの胎盤集積性を向上させる方法論など、キャリアとしての有用性向上に資する成果を得ている。一方で、ナノマテリアルは胎盤関門を突破し、微量ながら胎仔へも移行する可能性を見出したことから、当該年度は、ナノキャリアの安全性に関する情報収集を試みた。 粒子径8 nm、1 nmのナノ白金を、妊娠後期の母マウスに静脈内投与し、ナノ白金の体内動態と仔への影響を評価した。その結果、①1 nmのナノ白金は胎仔の脳にまで移行すること、②1 nmのナノ白金を投与された母マウスの仔は低体重を示すこと、③8 nm、1 nmのナノ白金を投与された母マウスの仔は、それぞれ成長後に、不安様行動の低下、うつ様行動の低下を示すことが明らかとなった。したがって、妊娠期の母体へのナノ白金の投与は、仔の成長抑制や情動認知行動異常を誘発するハザードがあること、粒子径の違いにより異なるハザードが生じることを明らかとした。 次に、ナノマテリアルが胎盤関門を突破するメカニズム解析を試みた。胎盤関門を通過し、胎仔へ移行することを見出している、粒子径10 nmのナノ銀を妊娠後期のマウスに静脈内投与し、胎盤関門の透過性に与える影響を評価した。その結果、10 nmのナノ銀は、胎盤の傷害や炎症を伴わずに胎盤関門の透過性を亢進させる可能性を明らかとした。したがって、ナノ銀が胎盤関門を突破するメカニズムについて、ナノ銀が胎盤関門の透過性を亢進させることで、ナノ銀自身が胎盤関門を突破しやすくしている可能性が考えられた。 以上のように、昨年度の成果と合わせ、本申請研究では、ナノ胎盤キャリアの有用性のみならず、安全性を担保・向上させるための方法論・基盤情報の収集を達成した。本成果は、妊娠期を対象としたナノマテリアルを用いたDDS技術の発展にとって有用な情報となると考えられる。
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