研究課題/領域番号 |
13J00961
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 純平 北海道大学, 大学院獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 慢性腎臓病 / 自己免疫疾患 / 自然免疫 / Toll様受容体(TLR) / ポドサイト / 腎臓 / BXSB/MpJマウス / 糸球体腎炎 |
研究概要 |
本研究は、腎疾患、特に近年問題となっている慢性腎臓病(CKD)の主因となる慢性糸球体腎炎におけるポドサイトの傷害メカニズムを解明し、新たな傷害マーカーを同定することにより、「CKDの早期診断法の開発および有効な新規治療法につながるシーズを提供する」ことを目的とする。 本年度はまず、自己免疫性糸球体腎炎モデルであるBXSB/MpJ-Yaaマウスを用いて、ポドサイトの分子病態の精査と、分離糸球体を用いた網羅的遺伝子発現解析によるポドサイト傷害マーカーの選抜を行い、以下のことを明らかとした。 ①BXSB/MpJ-Yaaは免疫複合体の沈着を伴う膜性増殖性糸球体腎炎を発症していた。また、本マウス糸球体では糸球体包内壁の上皮細胞(ポドサイト)の足突起の癒合・消失、スリット膜部の不明瞭化が認められた。さらに、糸球体におけるポドサイト機能因子の発現減少が認められ、その発現レベルは糸球体機能障害スコアと有意な相関を示した。 ②BXSB/MpJ-Yaaマウス発症初期個体の分離糸球体を用いた網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、TLRファミリー、およびその下流因子である炎症性サイトカインの発現上昇が認められた。107倍の顕著な高発現を示したTLR8の腎臓内局在を免疫組織化学法およびin situハイブリダイゼーション法により解析したところ、ポドサイトに強く局在した。さらに、ポドサイト株を用いて病態モデル血清でTLR8を刺激したところ、非感染性炎症が誘導された。 以上より、 これまで明らかでなかった自己免疫性糸球体腎炎におけるポドサイト傷害の実態、またその病理学的プロセスにToll-like receptorファミリーを介したシグナルが関与することを明らかとした。今後は病態モデルおよび培養細胞を用いた本病理学的メカニズムの全貌解明と、臨床サンプルを用いた外挿検証を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主目標は、慢性糸球体腎炎におけるポドサイトの分子病態の精査と、分離糸球体を用いた網羅的遺伝子発現解析によるポドサイト傷害マーカーの選抜であったが、病態モデルを用いた解析により、超微形態学的および分子生物学的変化を伴うポドサイト傷害と、Toll-like receptorファミリーが関与する病理学的プロセスを明らかにし、本目標を達成できた。加えて、臨床サンプルの解析にも着手済みであり、イヌ・ネコ・ヒトにおける本病態の臨床的エビデンスが既に得られはじめており、今後さらなる進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
臨床サンプルの解析から、TLR発現動態の動物種差などの臨床応用上の問題点が明らかとなった。今後は、実験動物および培養細胞を用いたさらなる病理発生機構の解明に加えて、動物種差にフォーカスした臨床獣医学・医学への外挿検証を行っていく。
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