本研究は、慢性腎臓病(CKD)の主因となる慢性糸球体腎炎におけるポドサイトの傷害メカニズムを解明し、傷害マーカーの同定・尿中検出法の確立によって、「CKDの早期診断法の開発および有効な新規治療法につながるシーズを提供する」ことを目的としている。これまでの研究により、①慢性糸球体腎炎におけるポドサイト傷害の分子形態学的変化、②自己免疫疾患、およびそれに続発する慢性糸球体腎炎の病態における、第一染色体テロメア領域に存在する遺伝子座の関与、③CKD、特に慢性糸球体腎炎におけるポドサイト細胞傷害へのTLR8シグナル活性化の関与、④イヌの腎臓における糸球体、特にポドサイト特異的なTLR8の発現と、糸球体傷害時における発現増加を明らかとしてきた。本年度は、新たなポドサイト傷害仮説としての「インフラマソームとポドサイト傷害との関連」について解析を行った。 慢性糸球体腎炎モデルマウス(BXSB/MpJ-Yaaマウス)の分離糸球体において、インフラマソーム関連因子は高発現を示し、ウエスタンブロットによる蛋白発現解析の結果、これらが活性化していることが明らかとなった。また、これらの因子の糸球体内mRNA発現量はポドサイト傷害スコアと強い正の相関を示し、その蛋白局在はポドサイト領域に限局した。これらの結果から、慢性糸球体腎炎において、インフラマソームの活性化がポドサイトの病理学的プロセスに関与する可能性が示唆された。これらの成果は、「CKDの制御」という本研究の最終目標につながりうる新知見であり、ポドサイトをターゲットとした創薬研究に向けた重要なアカデミックエビデンスとなる。
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