申請者の研究は、最適反応を有限回しか計算できないような限定合理的プレイヤーを想定する不完備情報ゲームの理論的特徴付けならびにその含意を実験を用いて統計的に検証するものである。平成25年度は大きく分けて以下の2つの研究を行った。 第1に、限定合理性を想定するモデルとして最も代表的なモデルの1つであるレベルK理論から導かれる予測が、レベル0の行動の決め方にどのように依存しているかを分析した。本研究では、レベルOの行動を高い確率で知っているものの、極めて小さい確率で他の行動をする疑いがあるときの予測のゆらぎをKajii and Morris (1997)の手法を用いて分析した。レベル0の行動に少し不確実性があるときとそうでないときであまり影響を受けないような予測を頑健な予測と定義し、予測が頑健であるための十分条件を導出した。この十分条件の下では、たとえレベル0が分析者の想定する行動とは異なる行動を選ぶ可能性が微少に存在していたとしても、その不確実性を無視して元の予測を使用したときと大きな違いがないことが保証される。私の論文の主な貢献は、理論的な側面にあるが、同時に実験や実証分析を行う研究者に対しても有益な示唆を与える研究である。 第2に、一般的なメカニズムに限定合理的プレイヤーを導入し、そこでの理論的予測が通常の理論予測とどのように異なるかを考えてきた。より具体的には、最適解にたどり着くまでに最適反応を何回計算する必要があるかという基準でメカニズムの単純さを定義し、これまでの理論では同一視されてきたメカニズムを単純さによって分類できるか考えた。 上記2つの研究は、ゲーム理論が導く予測が、「最適反応を無限回計算できる」というゲーム理論では頻繁に想定される仮定にどのように依存しているかを考える上で重要な研究である。
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