研究課題/領域番号 |
13J01036
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
多田 蔵人 国文学研究資料館, 研究部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 永井荷風 / 近世(江戸)と近代 / 江戸趣味 / 古典受容 / 言説史 / 文体 / 検閲 / モダニズム |
研究概要 |
本年度の研究では、個々の作品の具体的な分析を通じて、これまで見落とされがちであった近代文学における近世文化との時代間交流の諸相を明らかにしてきた。同時に、個々の論文のなかではそれぞれの作品と時代状況とのかかわりを資料調査によって明らかにし、そうした時代間交流によってみえてくる文学状況・文化状況を、より広い視点で提示している。これらの作業は、近代の文学と文化における近世文化受容という側面の重要性を明らかにするとともに、〈近代文学〉という概念に新たな光を当てるものである。 具体的な研究成果としては、まず、論文「永井荷風『すみだ川』の位置」を発表した。当該論文では、都市・浅草の描写を同時代の言説と比較しつつ分析することで、本作に頻繁に言及される近世期の物語が、明治四〇年代の文学概念を捉えかえすための重要な契機となっていることを指摘した。次に、学会発表「永井荷風『雨瀟瀟』論」・論文「永井荷風『雨瀟瀟』論」では、小説の文体を詳細に分析し、かつ個々の字句の出典を調査する作業を通じて、『雨瀟瀟』に近世と近代の表現を交響させようとする意図的な試みがあったことを指摘した。懐古趣味として捉えられてきた当該作が、表現史のあらたな領野を切りひらこうとする前衛的作品であったことを、具体的な資料調査にもとづきつつ示したものである。さらに、論文「永井荷風『戯作者の死』論」では、近代における江戸文芸イメージの改変ぶりを指摘するとともに、そうしたイメージの編集・創出が、検閲や弾圧といった同時代の状況に対する批評たりえていたことを明らかにしている。なお、荷風以外の作家についても「《翻刻》芥川龍之介「開化の殺人」完成原稿」(小谷瑛輔氏との共著)を発表しており、当該作が持つ近世と近代をめぐる問題について論考を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画したよりも多くの成果を具体的な形で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、個々の論考をまとまった成果として発表することを予定している。また、他分野の学会・研究会に参加することにより、当該研究のもつ文化史的な包括性をアピールしていきたいと考えている。
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