研究課題/領域番号 |
13J01075
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金築 俊輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハイパー核 / マルチストレンジネス / J-PARC / 磁気スペクトロメータ |
研究実績の概要 |
散乱粒子用磁気スペクトロメータ"S-2S"の開発と、SKSスペクトロメータを用いたパイロット実験の検討を行った。 S-2Sの電磁石系は四重極電磁石2台(Q1,Q2)と偏向電磁石1台(D1)から構成される。平成25年度末に完成したQ2の磁場測定を行い、予想性能を2%上回る磁場強度を達成していることを確認した。三次元磁場計算を行い、1%の精度で測定磁場分布を再現した。また、電磁石系全体の磁場計算も行い、それを元にさまざまな標的位置や測定運動量に対する磁気光学系の最適化を行って、立体角55msrが実現できることを示した。 S-2S上流2面目の飛跡検出器の開発を行った。シミュレーションにより、大きさ、物質量、位置分解能などの要求性能を調べた結果、有効面積が横15 cm、縦30 cm で、ワイヤー間隔 2.5 mmのワイヤーチェンバーが最適であるとわかった。これに基づいてチェンバーの設計、製作を行った。 粒子識別検出器についても開発を行った。散乱粒子の飛行時間測定に用いるTOF検出器は、昨年度製作した検出器モジュールに加え、架台を新たに設計、製作し、組立試験を開始した。トリガー段階で陽子を抑制するための水チェレンコフ検出器について、東北大学電子光理学研究センターにおいて試作機のテスト実験を行い、K+検出率99%、陽子抑制率90%という要求性能を同時に実現できると見積もることができた。 SKSは現在J-PARC ハドロン実験施設に設置されているスペクトロメータであり、0.2%の運動量分解能と110 msrという大立体角を両立することが特徴である。SKSと10 cm厚のCH2標的を用いて、Ξハイパー核およびΞ生成の素過程についての情報を引き出す実験を計画した。過去の実験データや原子核反応計算コードを用いてデータ収量とバックグラウンドについて見積もり、実験セットアップと必要な実験時間について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度初めにD1電磁石の組み上げが完了することで、S-2Sの電磁石系が完成する。それに合わせて、磁場測定や磁場解析、光学計算も順調に進んでいる。測定器系については、新規に設計したワイヤーチェンバーが完成した。粒子識別検出器群についても、開発がほぼ終了し、これから実機の全モジュールの製作・組み立てと、性能の最終確認を行う。バックグラウンドに関するシミュレーションも進展し、問題なくデータ取得できると見積もっている。SKSを用いた実験の検討も行い、有意義な物理データ取得ができることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度初めに完成するD1電磁石の励磁試験と磁場測定を行う。磁場計算を行ってその結果を精度良く再現することに取り組み、その後3台の電磁石系を組み合わせて用いた場合の磁場分布を求める。 検出器系に関しては、まず新規製作したワイヤーチェンバーの性能試験を行う。電磁石下流側に設置する既存のワイヤーチェンバーに関しても、読み出し系の改修と動作確認を行う。トリガー検出器については、昨年度設計を終えた水チェレンコフ検出器の実機の全モジュールを完成させる。TOF検出器についても組立と性能確認を行う。これらにより、S-2Sの開発が完了し、J-PARCへの設置を待つのみという状況になる。 平成25年5月に起きたJ-PARC ハドロン実験施設での放射性物質漏洩事故の影響でビーム利用スケジュールが大きく遅れているため、S-2Sの実験エリアへの導入と、それを用いた実験を平成27年度中に行うことができない状況となっている。そこで、実験エリアに現存しているSKSスペクトロメータを用いた実験を2015年秋に行いたいと考えている。2 週間のデータ取得で、50 個のΞハイパー核を 5 MeV のエネルギー分解能で観測することができ、さらに1 日のデータ取得で、5 通りの入射運動量でそれぞれ 1000 個のΞ生成過程を調べることができると見積もっている。本研究で目標としているΞハイパー核の情報を得ること、精度の悪いデータしか存在しないΞ生成素過程の測定を2桁良い統計精度で行うことで、ハイパー核生成の理論計算への基本的な情報を与え、将来の実験条件を最適化することが目的である。平成27年5月に計数率の予備測定を行って、十分なデータ取得効率を達成できるか確認する予定である。
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