研究課題
本年度の主な成果は、熱ホール効果測定システムの立ち上げに成功したということである。これまでの理論的な研究によって、量子スピン液体のモデルが数多く提案されてきたが、その中でも実験結果との対応から多くの注目を集めているモデルに、準粒子であるスピノンがフェルミ面をつくっていると考える理論がある。このモデルを考えた場合、量子スピン液体物質は絶縁体で、その励起も電荷を持たないものであるにもかかわらず磁場に応答してローレンツカと同等の力を受け熱ホール効果が起こる可能性があることが理論的に指摘されている。したがって、量子スピン液体物質において熱ホール効果を測定することができれば、量子スピン液体の性質を明らかにする上で大きなブレイクスルーとなることは間違いない。熱ホール効果の測定には非常に精密な熱測定技術が求められる。そこで、これまでも量子スピン液体の熱伝導率測定などにおいて顕著な成果を挙げている東京大学物性研究所の山下穣准教授と共同で、山下研究室所有の温度可変インサートと16T超伝導マグネットを用いた熱ホール効果測定システムを開発した。研究実施計画通り本年度中に測定システムの組み立て、熱伝導率が既知の試料を用いたテストランを終えている。現在、非常にフラストレーションの強いカゴメ格子反強磁性体であるVolborthieの熱伝導率・熱ホール効果の測定を平成25年度から継続して行っており、平成26年度中にさらなる成果が見込まれている。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度中に測定システムを確立する計画であったが、その目標が達成されたため。
熱ホール効果測定システムが確立されたので、今後は種々の量子スピン液体候補物質の熱ホール効果測定を行っていく予定である。具体的には、現在継続して測定中であるカゴメ格子反強磁性体のVolborthite、最近発見された新たな量子スピン液体の候補物質であるκ-(ET)_2Ag_2(CN)_2などの熱ホール効果・熱伝導率を測定し、それらの物質中で実現されている状態の性質を解明する上で重要な知見を得ることを目指す。
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Physical Review B
巻: 89 ページ: 115112-1-115112-5
10.1103/PhysRevB.89.115112
巻: 88 ページ: 144518-1-144518-7
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