本年度はじめに、昨年度完成させた熱ホール伝導度測定システムを用いてボルボサイトの熱ホール伝導度の測定を行った。電荷の自由度のない磁性体での熱ホール効果は、限られた条件下でのみ起こることが予言されており、もしボルボサイトで熱ホール効果が起こることが示せたならば、ボルボサイトの磁気状態に強い制約を課すことができる。実験の結果、有限の熱ホール効果を観測することができたが、熱浴に使用していた銅のもつバックグラウンドの熱ホール効果が無視できないことがわかった。 この問題を解決すべく、私は測定で主に問題となる1K以上の領域において熱伝導率のよい絶縁体で測定セルを作りなおすことを検討した。そして、フッ化リチウム(LiF)を用いることで、要求する性能を満たすことを見出した。実際に、測定セルのうち問題となっている部分をフッ化リチウムで置き換え、測定試料をのせずにバックグラウンドの熱ホール伝導度を測定したところ、これまで見えていたボルボサイトの横方向の反対称的な温度差に比べてバックグラウンドを1桁程度小さく抑えることに成功した。 この改良した測定セルを用い、再度ボルボサイトの熱ホール効果の測定を行った。その結果、バックグラウンドのシグナルより充分大きな熱ホール効果を観測することができた。また、熱ホール伝導度の温度依存性も測定し、熱ホール伝導度は20K付近にピークをもつことを見出した。磁化率も20K付近にピークをもつことから、磁気的な相関の発達と熱ホール伝導度の増減の関係性について議論できる可能性があると考えている。 ここまでの結果について、下に示す通り日本物理学会、アメリカ物理学会で発表を行った。 今後は熱ホール効果の起源に関する考察を行い、結果を平成27年度中に論文にまとめて投稿する予定である。
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