研究概要 |
・研究目標と本年度の成果 : 炭素繊維強化熱可塑性樹脂における熱融着の接着強度を向上させるという立場から, それらに寄与する融着条件(温度, 圧力, 時間)を化学的因子に配慮しつつ, 力学的な観点から問題を分割・整理した. 具体的には, これらの融着条件が炭素繊維強化熱可塑性樹脂積層板における熱削着時の繊維/樹脂の流動挙動に与える影響を, その場観察と圧力の測定を通して実験的に明らかにした. この際, 実際のき裂や積層板同士の熱融着を行うのではなく, 積層板端面における繊維/樹脂の流出挙動を襯察することで, 表面性状の影響を排除した. ・具体的な実験内容と結果 : 積層板の板厚方向に4MPaの圧力を負荷しその状態で変位を固定した. 次にPA6の融点210℃から10分ごとに1℃ずつ220℃まで上昇させ, 各温度で30秒ごとにロードセルにかかる荷重を測定し, 1分ごとに試験片端面の観察画像を撮影した. この結果, 1)温度上昇に伴って圧力が段階的に上昇し, 観察画像より繊維・樹脂ともに流出しないが, 2)さらに温度を上げると, 圧力が横ばいあるいは次第に減少し, 樹脂のみ流出しはじめ, 3)より高温では, 急激な圧力低下が見られ, 繊維および樹脂流出が生じる, といった変化が観察できた. またこのような変化を生じ始める温度は積層板の層厚にも依存することが示唆された. ・実験結果の意義 : 融点以上の温度領域における積層板に加わる圧力の変化と繊維/樹脂流出挙動を結びつけることができた. これにより, 熱融着時の繊維/樹脂の流動挙動を解析する際に問題を細分化でき, より簡単なモデルで数値解析を行うことができる. また, 実構造部材においても, 繊維/樹脂の流動を制御することで, より最適な融着条件を選ぶことができる, 例えば, 繊維を流動させることなく樹脂のみを軟化させることで, 繊維配向のずれによる力学物性の低下を抑えるといった応用が考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記述したとおり, 熱融着条件下における繊維/樹脂の流動挙動に関して, 実験的に大幅な進展があった. またこの実験事実は, 代表者が行ってきだ熱融着によるCFRTP積層板の内部損傷修復における積層板の挙動, すなわち, 試験片寸法に変化はないが, 内部損傷は接着しているという実験事実と一致しており, 本年度の成果と従来からの研究と結びつけることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は前記のように実験的に大きな進展があった. しかし, 積層板の層厚や繊維体積含有率が繊維・樹脂流動挙動に与える影響を検討するためには, ミクロ・マクロスケナ川での数値解析によって, 樹脂の粘度と繊維樹脂混合物の粘度とが層の流動に与える影響や, 層間に働くせん断力などを評価する必要がある. よって, 今後は有限要素法などをもちいた数値解析を進める他, 繊維体積含有率を変化させた積層板をもちいて, 引き続きその場観察をもちいた実験を行っていく必要がある.
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