研究課題
本研究の目的は心疾患の重症度評価における左心房の運動性評価の有用性を確立することである。具体的には、(1)犬の臨床例の予後判定における左心房の運動性評価の有用性を評価すること、(2)正常犬における血行動態の変化による左心房の運動性の変化を解析し心疾患の病態と左心房の運動性の関係性を明らかとすること、である。本年度は(2)についての研究を実施した。鎮静処置を行った正常犬に対して、種々の心血管薬を投与した前後での左心房の運動性の変化を検討した。また、比較のため左心室の運動性の変化の評価も行った。ドブタミンはβ1アドレナリン受容体作動作用を持つ陽性変力薬である。この薬により心筋の収縮運動は亢進する。ドブタミンを正常犬に対して投与したところ、左心室、左心房の双方で運動性が亢進した。エスモロールはβ1アドレナリン受容体遮断作用を持つ陰性変力薬である。この薬により心筋の収縮運動は低下する。エスモロールを正常犬に対して投与したところ、左心室の運動性は低下したのに対して、左心房の運動性に変化は認められなかった。ミルリノンはホスホジエステラーゼ阻害薬である。陽性変力作用に加えて血管拡張作用を持つことから強心性血管拡張薬と呼ばれる。ミルリノンを正常犬に対して投与したところ、左心室の運動性は亢進したのに対し、左心房の運動性に変化は認められなかった。フェニレフリンはα1アドレナリン受容作動作用を持つ血管収縮薬である。この薬により全身性高血圧症を作出することができる。フェニレフリンを正常犬に対して投与したところ、左心室の運動性は低下したのに対して、左心房の運動性に変化は認められなかった。以上の結果から、正常犬において血行動態の変化が及ぼす影響は、左心室の運動性と左心房の運動性で異なること、また、左心房の運動性は血行動態の変化に対して安定的であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、正常犬における薬物誘発性の実験的血行動態の変化による左心房の運動性の変化を解析し、心疾患の病態に左心房の運動性がどのように関与しているのかを明らかにすることに取り組んだ。その結果、正常犬において心臓薬による血行動態の変化が及ぼす影響は、左心室と左心房ではその運動性が異なること、また、左心房の運動性は血行動態の変化に対して安定的であることを示した。これらの成果は第157回日本獣医学会学術集会(2014)において発表し、また国際学術誌であるAmerican Journal of Veterinary Research誌に受理された。
次年度の研究に関しては、(2)正常犬における血行動態の変化による左心房の運動性の変化、についての実験研究の実施を予定している。具体的には、過剰量の静脈内輸液による容量負荷が左心房の運動性に及ぼす影響、を検討する予定である。この実験は僧帽弁閉鎖不全症や動脈管開存症などの容量負荷性心疾患のモデルとなるため、容量負荷性心疾患における左心房の運動性と血行動態の関係性についての基礎的知見を得ることができると考えられる。
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American Journal of Veterinary Research
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Journal of Veterinary Internal Medicine
巻: 28 ページ: 1746-1752
10.1111/jvim.12441