研究課題/領域番号 |
13J01143
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
堀 千明 独立行政法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ポプラ / 樹木 / 細胞壁 / バイオマス / 担子菌 / きのこ |
研究実績の概要 |
本研究では、担子菌分解機構に関わる酵素群を植物改変のための遺伝子材料として利用することで、易分解性バイオマス生産植物の作出を目指す。植物細胞壁の分解性において重要なファクターになるキシランの構造を変化させるために、木粉培地で担子菌が多く生産したキシラン分解酵素を選択した。本年度は昨年取得した3種類の組換えポプラの細胞壁の解析を行った。予想に反して、いずれの組換えポプラにおいても、野生型と比較してバイオマス量あたり糖化効率が減少した。そこで主要成分量を測定したところ、GH10-1およびGH10-2導入変異体においてキシロース含有が減少すると共にグルコース含有量が著しく低下していた。一方でいずれの変異体においてリグニン含有量が増加していた。これらのことから、リグニン量が増加したことが原因となって、酵素糖化効率が減少したと考えられた。これらの結果は当初の予定とは異なるが、細胞壁形成に関する知見が得られる可能性が考えられたため引き続き、変異体の細胞壁について顕微鏡観察により詳細に調べることとした。主要成分の局在を観察するために、キシランの抗体を用いた免疫染色を行い、共焦点顕微鏡によって観察した。そのときに、セルロースに吸着する蛍光試薬カルコフローおよびリグニンの自家蛍光を観察した。その結果、野生型では茎上部において導管の細胞壁のみにキシラン沈着が観察された一方で、GH10-1およびGH10-2の変異体においては導管に加え周辺細胞の細胞壁にもキシランの沈着が確認された。茎下部においては野生型と比較して、GH10-1およびGH10-2の変異体において形成層のより近い部分からキシランおよびリグニンの沈着が確認された。これらのことから、これら2種類の変異体においては、二次壁形成(キシラン/リグニン沈着)する時期が早くなる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、昨年度取得した組換えポプラについて酵素糖化試験および細胞壁解析を行っており、本課題を精力的に進めている。予想とは異なり組換えポプラの酵素糖化率は減少傾向であったが、免疫染色を用いた顕微鏡観察により細胞壁形成に違いがあることを発見した。結果として、実験を順調に進展させていると言える。また、ポプラの細胞壁を解析する様々な技術を取得しており、その技術を共同研究として他植物の解析に応用する等、研究を発展的に進めている。また、国内および海外学会に精力的に参加していること、国内雑誌に総説1報および海外学術誌PLoS Geneticsに原著論文1報が掲載されていることからわかる通り、意欲的に研究活動を行っている。したがって、成果としておおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度からは得られた組換えポプラの細胞壁形成に与える影響について二次壁形成に関わる遺伝子の転写産物量の変化を測定することにより詳細な分子メカニズムを明らかにし、これら結果と合わせて論文をまとめる予定である。また、一方で、細胞壁構造を変化させるための更なるターゲット遺伝子を探索するために、担子菌が生産する分解酵素ならびに植物自身の細胞壁形成に関わる分解酵素についても知見を得ることを考えている。
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