研究課題/領域番号 |
13J01161
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井筒 弥那子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 実験進化学 / 進化学 / 適応 / ショウジョウバエ / 集団遺伝学 / 生殖競争 / ゲノム / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
前年度に特定した、野生型バエと暗黒バエの混合集団において有意に頻度の変化が見られるゲノム領域に位置する170個の遺伝子に関して、遺伝子ノックダウンによる機能解析を試みた。世界各地のショウジョウバエストックセンターからGAL4系統と128のUAS系統を取り寄せ、組織特異的RNAiの適応度への影響を調べた。GAL4とUAS系統の掛け合わせを12時間サイクルの明暗条件(LD)と恒暗条件(DD)で行い、バランサーの染色体を持つRNAiが効いていないハエをコントロールとして、RNAiが効いているハエの数に変化が見られるかどうかを調べた。いくつかのRNAi系統についてハエの数に変化が見られたが、統計検定では有意判定が得られなかった。F1の数は分散が非常に大きくなるため、F1の数に代わる適応形質の再検定を試みた。 野生型との競合実験において雄と雌それぞれの形質がどれだけ適応度に寄与しているのかを調べるために、雄と雌の競合を別々に行うことにした。野生型と暗黒バエの雄に対して1種類の雌を、同じく野生型と暗黒バエの雌に対して1種類の雄をあてがう3者による競合実験を試みた。同じ競合実験をLDとDDの異なる光環境で行ったところ、雌同士の競合において暗黒バエの雌がLDに比べてDDで多くの子供を残した。暗黒バエはLDに比べてDDで産卵数が上昇することがわかっていたため、この結果は雌の産卵数を直接反映するものと考えられた。雄の競合においては、全体的に暗黒バエの雄の子供が多いことが示された。先行研究で交尾にかける時間が野生型に比べて短いことや、雄が野生型に比べて活発であることがわかっており、これらの形質が3者の競合実験で見られた暗黒バエ雄の高い適応度に関わることが示唆された。以上の結果より、暗黒バエの暗闇適応形質は、暗闇における雌の産卵数の増加と雄の攻撃性ないしは活動性によるものであることが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
候補となった遺伝子でUAS系統が手に入るものに関してはすべてRNAiアッセイを行ったが、暗闇適応の決め手となるLDとDDの差は見られなかった。原因としては、ストックセンターのエサに付着していたダニの影響などが考えられたが、ダニの駆除は困難を極めた。また、そもそもF1の数はばらつきが大きく少しの環境変化で再現性が得られなくなる形質であることや、ショウジョウバエでは一回の検証に2週間かかることなどが今後大量のアッセイをかける上で律速となることが予想された。 F1の数という適応度の指標に代わる適応形質の指標が必要であると考えられたため、改めて適応形質の再検討を行った結果、前述の通り、雌の産卵数の上昇と雄の攻撃性の上昇が関与している可能性が示唆されたため、今後はこの二つの形質に的を絞って解析を進めていく予定である。 また、RNAiアッセイで期待していたのは、適応形質が遺伝子の発現量減少によって成された場合の適応形質の再現や発現量が適応度に与える影響を実際の暗黒バエの形質よりも顕著に見られるのではないか、というものであったが、例えば発現場所の変化やタンパクの機能の変化、また発現量の上昇によって初めて適応形質が現れる場合は、RNAiアッセイは効果を示さないことも考えられた。そのため、RNAiよりも効率的な手法として、deficiency mappingを導入することにした。deficiency mappingはゲノムの一部の領域を欠損した変異体と暗黒バエの雑種の形質を調べることで、適応形質に関わる暗黒バエゲノムの領域を絞る系である。この系は暗黒バエ自身の形質を指標にアッセイを行うことから、RNAiのように再現できる変異の効果に制限がなく、一系統を調べるごとに着実にゲノムの領域を絞っていくことができるため、非常に効率的なアッセイ方法であると考えられる。 これらのことから、次年度には進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、混合集団のハエを用いて、実際に野生型との競合実験においてLDよりもDDで適応度を上げるのか、卵の数はDDで増えるのか、雄の攻撃性は高いのか等を調べる。混合集団のハエでの選択が確認された形質に関して、deficiency mappingを用いて形質に関わるゲノムの領域を絞る。絞った領域に位置する遺伝子に関して、ノックダウン、ノックインを用いた個別解析を行う。 また同時に、ゲノム解析の再考も行う。
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