研究課題
我々は、遠方銀河や銀河団のミリ波帯からテラヘルツ帯にかけた広視野観測から、宇宙の構造形成史を理解することを目指している。この目的のため、筑波大学が南極ドームふじ基地に建設を計画している10mテラヘルツ望遠鏡へ搭載するための超伝導カメラの開発を進めている。本年度は、ダブルスロットアンテナとシリコンレンズアレイを用いた光学系とMicrowave Kinetic lnductance Detector (MKID)を組み合わせた220-GHz帯608画素カメラの開発を行った。多画素カメラを実現するためには高い集積度をもつ小口径シリコンレンズアレイの開発が重要となる。そこで、集積化したレンズモデルについて電磁界シミュレーションを行い、レンズ直径が観測波長の1.2倍と非常の小さい場合でも対称性がよくサイドローブレベルが-15dB以下というビームパターンを得る解を明らかにした(Nitta et al.,2013)。この設計をもとに、高純度(11N)多結晶シリコンを超精密切削加工することで608画素シリコンレンズアレイを製作した。レンズアレイの形状測定から、観測要求を満たす形状誤差30μm、表面粗さ1μmを達成した。次に、シリコン表面では約30%の反射損失が生じるため、屈折率1.8の反射防止膜の開発が必須になる。そこで、低温の接着剤として用いられる屈折率1.68と2.2を持つ2種類のエポキシ樹脂を混合することで、屈折率の制御を試みた。結果、屈折率1.8の反射防止膜の開発に成功し、超精密切削加工により膜厚を制御することで220-GHz帯で95%の透過率を得た(Nitta et al., 2014)。超伝導体にアルミニウムを用いたMKIDアレイと反射防止膜を形成したシリコンレンズアレイを組み合わせることで220-GHz帯608画素カメラを開発した。大きさの異なるアライメントホールを用いることで、レンズとアンテナのアライメント誤差は距離50mmで10μm以下を達成した。100mKでの冷却測定の結果、608画素中約95%と非常に高い検出器歩留まりを達成した。また、77Kと300Kの黒体源を用いてMKIDの光学応答も確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、1000画素規模の超伝導カメラの開発を目指している。現在までの研究で、限られた望遠鏡焦点面を有効利用するために集積化した小口径レンズアレイを用いたことで、約50mmの領域に608画素を配置した超伝導カメラの開発に成功した。また、150㎜の真空窓醐いた状態で100mkを達成する冷却系の構築にも成功しており、このシステムを用いたカメラの評価では95%の歩留まりを達成していることから、開発は順調に進展していると考えられる。
10mテラヘルツ望遠鏡の建設を予定している南極ドームふじ基地は、極寒の高地に位置し水蒸気量が非常に少ないため、冬季にはサブミリ波、テラヘルツ帯での高効率な観測が期待できる。10mテラヘルツ望遠鏡では850-GHz帯がメインの観測周波数である。今後の研究では、本年度開発を進めた220-GHz帯608画素カメラの技術をもとにして、850-GHz帯1000画素カメラの開発を進める。90%以上の検出器歩留まりと850-GHzに対する光学応答を確認することを目指す。更に、早期に南極における観測を実現するために、10mテラヘルツ望遠鏡と超伝導カメラを組み合わせた光学設計も合わせて進める。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Journal of Low Temperature Physics
巻: (印刷中)
10.1007/s10909-013-1059-3
10.1007/s10909-013-1028-x