隕石有機物は高い重水素同位体濃集を持つことが知られており、その起源は分子雲であると考えられている。このような重水素濃集は隕石母天体での水質変成を受けることにより、減少していくと考えられている。また、1つの隕石内にも特に高い重水素濃集がみられる有機粒子も見つかっている。 本研究では、このような隕石有機物にみられる水素同位体のバリエーションの原因を定量的に調べるために、実験室で合成した模擬隕石有機物を用いて、隕石母天体を模擬した水熱変成実験を行った。実験後の有機物は、赤外分光法により水素同位体比の時間・温度変化を定量的に調べ、速度論的解析を行った。また、同位体顕微鏡を用いて、有機物の粒子サイズによる同位体比の変化の違いを調べた。さらに、同位体顕微鏡により、1粒の有機物粒子内で同位体比に不均一があるかどうかを調べた。 以上の結果、有機物と水との水素同位体交換は、粒子サイズによらず、粒子内でも均一に交換が行われていることが分かった。したがって、水素同位体比の変化は拡散律速ではなく、水素同位体比の時間・温度変化の速度論的解析結果は核形成・成長モデルにより最もよく説明されることが分かった。この速度論的モデルを用いることにより、隕石有機物と水との水素同位体交換過程を定量的に予測することが可能になった。また、粒子サイズによらずに均一に同位体の交換が起こることが分かったことにより、隕石中に見つかっている特に重水素の濃集が高い有機粒子は、水質変成を受ける前から重水素の割合が高かったことが示唆された。
|