研究課題
我々は次世代のMeVガンマ線望遠鏡として、電子飛跡検出型コンプトンカメラ(Electron Tracking Compton Camera, ETCC)の開発を進めている。昨年度の研究では、ETCCの想定以上の感度向上に加え、シミュレーションによりETCCの偏光検出可能性も示した。近年、天体X線ガンマ線の偏光検出の重要性は増している一方、MeV領域で偏光検出能力を持つ検出器は少ない。ETCCの偏光検出器としての有用性を実証できれば、ETCCによる天体観測計画を進める上で強力な武器となる。そこで本年度は、気球搭載用ETCCを用いた2通りの偏光検出能力の実証・定量評価を行った。(1) Ba-133ガンマ線源(1.7MBq)から放射されるガンマ線をコンプトン散乱させることで、偏光ガンマ線を生成しETCCで観測した。SN比は0.2:1と雑音有意な環境であり、宇宙環境における偏光検出可能性の最初の確認としては妥当な実験である。得られた偏光モジュレーションは、シミュレーションとほぼ一致する結果が得られ、偏光検出性能の指標となるモジュレーションファクターは約0.5と非常に高い値が得られた。これにより、ETCCは雑音有意な環境下でも高い偏光検出能力を発揮できることが確認された。(2) ビームラインSPring-8 BL08Wを利用して、高統計での精密評価を行った。182 keV直線偏光ビームを10 mm厚のアルミ板に照射し、その90°散乱光をETCCで測定した。入射ガンマ線の偏光方向を変えたセットアップで測定を繰り返し、そのいずれにおいても得られたモジュレーションは、誤差の範囲内でセットアップから予想される結果と一致した。今後、実験結果のより詳細な解析とシミュレーションとの比較による定量評価を進める。
3: やや遅れている
当初予定していなかったETCCの偏光観測可能性を見出し、その高い検出性能を実証することができた。これにより偏光観測での活用も期待でき、ETCCによる天体観測計画を進める上では大きな進展があったと言える。一方で、気球打ち上げの予定が不透明なため、当初予定していたETCCを搭載した気球観測実験が行えていないため、研究全体としてはやや遅れている。
本年度の偏光実験の結果をまとめ、研究発表、特に論文投稿を活発に行っていく。また現在のETCCの観測性能は、測定データの解析方法を改良により、まだ改善する余地が見られるため、シミュレーションも駆使しして解析方法の研究を進める。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Journal of Instrumentation
巻: 10 ページ: C01053
10.1088/1748-0221/10/01/C01053
http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/research/MeV-gamma/wiki/wiki.cgi