研究課題
本研究では、人獣共通感染症である狂犬病のコントロールを目的とし、その撲滅のための戦略について検討を行なう。狂犬病蔓延国であるフィリピンをフィールドとして、狂犬病ウイルスの分子疫学及び疫学的アプローチから研究を行っている。当初、Ilocos Norte provinceをフィールド候補地としてGlobal Alliance for Rabies Control (GARC), Provincial Veterinary Office (PVO), ReSearch Institute for Tropical Medicine (RITM)との共同研究を計画していたが、GARSCによる大規模なイヌワクチンキャンペーンの開始により狂犬病疑い動物数の減少が見られ、疫学的研究を行なうに値するサンプルサイズが期待できないと判断したため、別のフィールド候補地(これまでの研究においても協力的で、多くの検体数が見込めるRegion IIIのPampanga province)でのActive surveillance研究を検討中である。一方で、RITMとの共同研究において、フィリピン全土のRegional Animal Disease Diagnostic Laboratory (RADDL)計17の内、11 RADDLから検体収集を行っている。このサーベイランスはPassiveであるため、詳細な疫学情報を得ることが出来ないという欠点はあるが、その分Active surveillanceと比較し広大な地域からの検体収集を行なうことができている。これらの検体から狂犬病ウイルスの遺伝子配列を解読し、その遺伝子学的なリンクについてGIS等を用いた空間解析を行なうことで、フィリピン全体でウイルスがどのように伝播してきたかを明らかにした。この結果、狂犬病ウイルスの伝播は極めて地域内に限局しており、ウイルス伝播の空間集積性が見られた。現状の狂犬病対策は地方政府単位で行われているが、ウイルスの伝播サイクルの広がりを予測し、その広がり方を考慮した上で近隣地方間での組織的イヌワクチン戦略を展開することで、ウイルス伝播をより有効的に阻止できることが示唆された。
3: やや遅れている
当初、Ilocos Norte provinceをフィールドとした疫学研究を予定していたが、サンプルサイズの問題により断念したため。Active surveillanceについては、現在候補地としてPampanga provinceを検討中である。
より有効なワクチン戦略を計画するためには、ウイルス伝播サイクルの広がりの大きさやその伝播パターンについて、詳細に解析する必要がある。ウイルスの広がり方に空間集積性が見られる一方で、集積性の程度にばらつきが見られたことから、ウイルス伝播を阻止・促進する因子の存在が考えられる。そこで、Passive surveillanceで得られたウイルス遺伝子情報・地理情報を用いて、地形・人口・地域内ワクチン接種率等の因子がどれほどウイルス伝播パターンに作用するのかどうかを、空間統計学を用いて明らかにしていく予定である。
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Infection, Genetics and Evolution
巻: 23 ページ: 86-94
10.1016/j.meegid.2014.01.026
http://www.virology.med.tohoku.ac.jp/biseibutugaku_j/publication.html