研究課題
本研究では、人獣共通感染症である狂犬病のコントロールを目的とし、その撲滅のための戦略について検討を行なう。狂犬病蔓延国であるフィリピンをフィールドとして、狂犬病ウイルスの分子疫学及び疫学的アプローチから研究を行っている。より有効なワクチン戦略への提言を目標とした場合、詳細な地域内伝播ダイナミクスを解明する必要がある。フィリピンが多くの島群からなる島国であることも踏まえ、島間伝播と島内伝播の2パターンの伝播動態について解析を進めている。島間伝播については、既にフィリピン全体の分子疫学研究の結果、稀なイベントであることが明らかとなっている。しかし、狂犬病対策が十分に行われていない現状では、たとえ狂犬病が見られていない地域であったとしても、一度のウイルス流入により狂犬病が蔓延してしまう可能性が考えられる。分子時計解析・系統地理学的解析・数理モデルを用い、近年フィリピン国内で見られた島間伝播の解析を行った結果、島への流入からイヌ狂犬病症例の発見まで1年ほどかかる可能性があること、イヌワクチン接種率が低い現状ではウイルス流入後容易に狂犬病が伝播しうることが示唆された。狂犬病ウイルスの流入を検知することは困難であり、たとえ狂犬病症例が報告されていない状況であっても、ウイルスの流入に備えた対策を通常時より行っておく必要があると考えられる。島内伝播については、ウイルス伝播のリスク・障壁因子の探索と評価を目的として研究を行っている。島内のウイルス伝播に強い空間集積性が見られたことから、ウイルスの伝播を阻止及び促進する何らかの因子の存在が考えられる。そこで、得られたウイルス遺伝子情報・地理情報を用い、地形・ヒトコミュニティの有無・地域内狂犬病対策状況等がどれほどウイルス伝播に影響を与えているのかを遺伝子系統学・地形遺伝子学的側面から解析をしている。
1: 当初の計画以上に進展している
より有効なワクチン戦略への提言を目標としているが、そのために必要な狂犬病ウイルス伝播ダイナミクスについて、島間伝播・島内伝播の両面から解明することができているため。島間伝播については、フィリピン国内の獣医学会にて発表することができ、地方政府への狂犬病対策に関する提言という目的を達成することができた。島内伝播については、グラスゴー大学のDr. Roman Biekとの共同研究を進めることができた。グラスゴー大学への短期留学により、地形遺伝子学や系統地理学の手法やアイデアを確認することができた。
島間伝播については既に論文としてまとめ上げ、近く英文雑誌に投稿する予定である。島内伝播については、これまで同様ウイルス伝播のリスク・障壁因子の探索と評価を目的として研究を進めていく。これまでに得られたウイルス遺伝子情報・地理情報を用い、ウイルス伝播に対する地形やヒトコミュニティの有無、地域内狂犬病対策状況等の影響の有無と大きさを遺伝子系統学・地形遺伝子学によって評価していく予定である。地形やヒトコミュニティの有無は、フィリピンの標高データ・人口・道路網地図を用い、既に収集済である。地域内狂犬病対策状況のデータについては、各地方政府の過去のイヌワクチン使用例をあるいは狂犬病対策に用いた予算額等を入手するよう努めるが、入手困難であることが予想されるため、各地方政府の予算額全体や社会保障に使用した割合、各地域の狂犬病疑い動物検体提出数などを代用することも検討している。今後も引き続き、地形遺伝子学に詳しいグラスゴー大学のDr. Roman Biekに師事し、研究を進めていく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
Virus Genes
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10.1007/s11262-014-1135-z
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http://www.virology.med.tohoku.ac.jp
http://www.eid.med.tohoku.ac.jp/index_j.html