当研究の目的は、人工核モデルを作成し、DNAの放射線切断を定量的に解析し、理論モデルの構築を行うことである。昨年度の予定は、まず人工核モデルの作成であった。申請時には、界面透過法とよばれる油中水滴の内部にDNAを封入し、脂質単層膜を張った界面を透過させることによって、二重膜を作成することであった。また、これをマイクロ流路を用いて作成の制御を行う予定であった。しかしながら、界面透過法による回収率は大変悪く、マイクロ流路による制御は時間とコストが非常にかかった。そこで、申請者は容易で、低コストで、大量にDNAを内包したリポソームを作成する全く異なる新規な技術の開発を試み、これを成功させた。これによって、実施計画の一つである内部のDNA濃度の定量的計測にも成功した。この手法は、本研究を推進するにあたって当然非常に有意義であるが、ドラッグデリバリーや遺伝子治療などの医薬学応用にも利用されうる重要性を秘めている。また、それだけではなく、原始の地球で自発的に起こりうるプロセスを用いているため、生命の起源という観点からも非常に興味深いと考えられる。これらの成果は論文としてまとめあげ、現在国際学術誌に投稿中である。 一方で、上記手法の開発の過程で、思いがけず膜の相分離に関する興味深い現象を見出した。これは、当研究の実施計画書には記載していないが、学術的に非常に意義があると考えられるため、この現象の解明も行いたいと考えている。
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