研究課題
スピンホール効果は電流を流したときにそれと垂直な方向に磁気モーメントすなわちスピンの流れ、スピン流が生じる現象である。スピンの自由度を利用したスピントロニクスの分野において重要な現象であり研究が進んでいる。近年発見されたトポロジカル絶縁体はその表面電子状態がスピン偏極しており、スピンホール効果の発現する可能性がある。我々はトポロジカル絶縁体であるセレン化ビスマス(Bi2Se3)におけるスピンホール効果の実験的研究を行っている。当研究ではBi2Se3薄膜に形成したH型構造での非局所抵抗を測定することでのスピンホール効果検出を行っている。この非局所抵抗はスピンホール効果とその逆過程に起因するものである。非局所抵抗とは、H型構造のいずれかの縦棒に相当する部分に電流を流し、もう一方の縦棒の間の電圧を測定し、値を除することで得られる抵抗のことである。この日局所抵抗は2つの成分が寄与していると考えられる。1つ目は微細構造が有限の線幅を持つことによる古典的電気伝導減少からの寄与である。2つ目はスピンホール効果による寄与である。この2つの寄与を分別することはこの研究の課題の一つとなる。実際、2014年度までの測定で古典的に説明のつかない非局所抵抗が測定されていた。2014年度内にさらにその温度依存性を測定することにも成功した。スピンホール効果が支配的な非局所抵抗と、古典的伝導が支配的な局所抵抗は温度変化に対する傾向が異なっており、スピンホール効果の存在を裏付けるものである。
2: おおむね順調に進展している
2013年度までに室温での測定が行われており、2014年度以降温度を極低温に下げて温度依存性をとることが予定されていた。4-7月は海外へ出張、7-10月には測定に使われる装置の改修が組み込まれ、1年通しての測定とはならなかったものの、温度変化させてのスピンホール効果測定まで完了することができた。さらに得られたデータはスピンホール効果の存在を示唆するものであった。以上をまとめると、計画以上に進捗しているとはいえないまでも、一定の成果があったものと認められる。
トポロジカル絶縁体におけるスピンホール効果はトポロジカル表面状態に由来するものである可能性は高い。このことを実証するために今後膜厚を変えた測定を行う。現時点では膜厚が8QL(1QL=5原子層=9.6Å)で実験を行っているが、この膜厚ではトポロジカル表面状態が存在する。薄くしていくと5QLでトポロジカル表面状態にギャップが開くことがすでに知られており、この領域での測定がトポロジカル表面状態の有無とスピンホール効果との関連に新たな知見を与えるものとなる。また、現時点ではトポロジカル絶縁体の絶縁性が高くない。トポロジカル表面状態の寄与を支配的にするため、ドーピングによるフェルミエネルギーの変調も行う予定である。候補としてアンチモンや鉛が考えられる。両者ともにトポロジカル表面を維持しつつBi2Se3のフェルミエネルギーの位置を変えられることが別の研究で知られている。
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