固体表面は空間反転対称性が破れているため、しばしばスピン縮退が解けてバンドが分裂する。トポロジカル絶縁体表面はその極端な例で、スピンの方向と運動量の方向が必ず直交している。そのため、運動量を反転する後方散乱や反射は抑制される。原子ステップのようなポテンシャル障壁も透過しやすいといわれ、実際にSTSを用いて実証されている。しかし、それがマクロな電子輸送現象に与える影響はこれまで不明であった。 それを解明するため、今年度の研究ではトポロジカル絶縁体表面での原子ステップの抵抗測定を試みた。微傾斜基板にトポロジカル絶縁体薄膜を成長させることで方向のそろった多数のステップを用意し、ステップ垂直、平行方向の抵抗率を測定した。その差などからステップ1本あたりの抵抗を見積もり、ステップ抵抗からステップ透過率を計算した。 フェルミエネルギーに表面状態のみが存在する試料(Pb-doped-Bi2Te3)の透過率は0.5程度であり、トポロジカル絶縁体でない表面状態の透過率よりも高かった。この透過率の高さはトポロジカル絶縁体表面の特徴である後方散乱の抑制を反映していると解釈できる。一方で、フェルミエネルギーに表面状態とバルク状態が存在する試料(Non-doped Bi2Te3)においては透過率が0.05であり、バルク状態の存在がステップ透過率を低下させることが判明した。また、双方ともトポロジカル絶縁体であるBi2Te3とBi2Se3のステップ透過率を比較すると、Bi2Se3のほうが高かった。Bi2Se3はフェルミ面の形状がBi2Te3よりも円形に近く、それに伴って後方散乱の抑制もより強力であることが既に知られており、それと関連すると思われる。このように、トポロジカル絶縁体のミクロなステップ透過特性が電気抵抗に反映されることが当研究により明らかとなった。
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