研究課題
日本のKAGRAをはじめとして、次世代の重力波観測器が現在建設中である。次世代重力波観測器のメインターゲットはブラックホールや中性子星というコンパクト連星同士の合体である。これらの連星合体のイベントレート計算は連星進化の理論計算から求められる。この連星進化の計算は現在の星起源のコンパクト連星の計算が先行研究として行われてきた。しかし、重力波のエネルギー放出は弱いため、連星合体するまでには非常に長い時間がかかる。そのため、宇宙初期からの重力波源の累積を考える必要がある。そのため、我々は宇宙最初の星である初代星起源の連星について注目した。初代星の連星進化を計算するために、既存の連星進化コードを初代星について計算できるように書き換えた。そのコードを使い、初代星連星の進化計算を行うことで次世代の重力波観測器で初代星起源のコンパクト連星合体がどの程度観測可能かを予想した。その結果、初代星起源のコンパクト連星は主にブラックホール同士の連星になることが分かった。さらに、現代の星起源か初代星起源かの違いは質量分布と合体率の赤方偏移依存性に現れることを予言した。これにより、宇宙初期にしか誕生せず、直接の観測が難しい初代星の存在証明について重力波を用いることで間接的にできることを示唆した。しかも、初代星起源の連星ブラックホールの質量は、連星合体のシグナルだけでなく、合体直後のブラックホールの準固有振動も次世代の重力波観測器で観測可能であることを予言している。ブラックホールは候補天体があるだけでいまだ直接観測はされていないので、この準固有振動が観測できれば、ブラックホールの存在証明になるだけでなく、強重力下でのアインシュタイン重力理論の検証にもつながるため、天文学的にも物理学的にも大変興味深い情報が得られるはずである。この成果はすでに論文として掲載済みである。
2: おおむね順調に進展している
初代星進化計算のためのフィッティング公式の作成及びフィッティング公式を用いた初代星連星進化計算を行うことで初代星連星起源のコンパクト連星の特徴を明らかにした。その結果、初代星は現在の星よりも重いコンパクト連星になる傾向があり、初代星の存在を重力波によって間接的に証明できうることを示した。この論文はMNRASに掲載された。現在は、連星相互作用の不定性によって初代星の進化がどう変わるのかも調査中であり、この論文も近日投稿予定である。当初の予定では三年計画で初代星の連星進化を明らかにする予定だったので、これは非常に順調に進んでいるといえる。
現在は初代星連星進化の結果が連星進化の不定性によらないかどうかというかを確かめている。これについても近々論文投稿予定である。この論文が完成次第、次は連星進化の金属量の依存性を調べそれが重力波の特徴やイベントレートにどう表れてくるかを研究する予定である。星の進化は、その星の金属量で大きく変わることが理論的に示唆されている。その最たるものが初代星で、初代星は金属を持たないことで、形成段階から大質量星として生まれ、星風による質量損失も効かないため、質量を失わず重いまま進化していく。低金属量の星も星風が効きずらいため、もともとの質量自体は初代星ほど重いものが多くはないが、質量損失しにくいため、現在の星よりもコンパクト星になりやすいのではないかと思われている。連星進化の金属量の依存性がわかれば、その結果を使い、宇宙の金属進化を反映した連星合体の推移がわかる。このような宇宙の金属量進化を考慮した宇宙初期から現在までの連星進化シミュレーションを行うことで重力波から昔の星の物理をどのように引き出せるかが予言できる。さらには、鉄より重い元素であるr-process起源の元素は中性子星合体の際に生まれるのではないかという理論的示唆があるので、この連星進化シミュレーションによって宇宙のr-process元素の推移も予測ができるはずである。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 442 ページ: 2963–2992
10.1093/mnras/stu1022