陽子や中性子などのハドロンの質量の大部分は,カイラル対称性の自発的破れによって生成されると考えられている.この質量生成機構によれば,原子核のような高密度物質中ではカイラル対称性が部分的に回復し,ハドロンの質量が変化する.本研究では,量子異常効果により質量変化が特に大きいと期待されるη'中間子を原子核中で生成し,その質量変化を観測することでカイラル対称性の破れによる質量生成機構の検証を行う. 本研究ではSPring-8/LEPS2ビームラインの高エネルギーガンマ線を原子核標的に照射することでη'中間子を生成する.標的まわりに置いた検出器群により,η'中間子生成からの信号をとらえる.η'中間子原子核を観測する上でもっとも大切な検出器は,標的の12 m上流に置かれたTOF-RPC検出器である.RPC検出器で検出した反跳陽子の質量欠損分布から,η'中間子原子核が生成されたかどうかを理論予想と比較して調べる.また膨大な背景事象を落とすために,標的まわり24°から144°を覆い,1320本のBGOクリスタルからなる高エネルギー分解能電磁カロリメータBGOegg検出器を用いる.BGOegg検出器では,η'中間子が原子核中の核子と反応してη中間子に変化したのち生じる2本のガンマ線を検出し,背景事象を抑える.またBGOegg検出器で検出された粒子が電荷を持たないことを確認するために,BGOegg検出器の内側にあるCDC検出器およびIPS検出器を用いる. 本LEPS2/BGOegg実験は2014年4月から炭素標的を用いた物理ランの取得を開始した.現在,各検出器の較正および物理データの解析が行われているところである.
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