研究概要 |
本研究ではユビキタス元素を利用することで, チタン合金に比肩する高強度とより高い延性を兼備した完全レアメタルフリー・低コスト・高強靭性純チタン材を創製することを目的とする. これまでの調査により, TiH_2粉末を原料として800℃での焼結処理後, 熱間押出加工を施したH-800EXTは高強度・高延性(引張強さ : 919MPa, 破断伸び : 29.6%)を示すことを実験的に確認しているが, これを高強靭化法として確立するには, その原理を解明し影響因子を制御する必要がある. 申請者はこの原因を, 水素(β相安定化元素)含有によるチタンの変態点降下が, 押出加工時の相構成を変化させるためと考えており, 本年度はこの「仮説の実験的検証」および「水素による高強靭化法の確立」を目標とした. H-800EXTの結晶粒微細化は, β相安定化元素である水素の影響によって, 押出加工時に一定量のβ相が生成し, そのβ相とα相が押出材内部で繊維状に配列することで互いの結晶粒成長を抑制したものであり, 水素に替わるβ相安定化元素として鉄を添加したJIS 4種純チタン材に対する押出加工実験および結晶方位解析によって, その形成理論を実証した. 本材における<0001>_α特異集合組織の形成過程は, 先ず, 体心立方構造を有するβ相チタンに押出加工を施した場合, 塑性変形過程での結晶回転に起因して<110>_β集合組織が形成される. その後, 試料の冷却過程においてα相を生成するが, ここでチタンの相変態による結晶構造変化はBurgersの格子方位関係に従うことが知られており, この結晶方位に関する幾何学的拘束の結果, 得られた押出材には<0001>_α集合組織が形成される. このような特異集合組織の形成は, β相安定化因子の影響によってチタンの変態点が低下し, β単相域からの加工が安定化することに起因していると結論付けられる. 以上より, 本年度の目標であった微量水素含有によるチタン押出加工材における結晶粒微細化メカニズムに関する仮説を検証し, その原理を応用することでTiH_2粉末由来の水素を利用した高強靭化法の確立に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の目標としていた「結晶粒微細化メカニズムに関する仮説の実験的検証」に成功し, かつ「その原理を応用したチタン粉末押出材の高強靭化」に関しても再現性を含め十分に実現できた. さらに, 研究成果の学術論文投稿および学会発表についても複数完了していることから, 本年度の達成度を『①当初の計画以上に進展している』と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に開発した純チタン材をベースとして, 強化因子TiO2粒子の添加による固溶強化の発現を実験的に検証の上そのメカニズムを解明し, 固溶強化理論に基づいて強化量を算出する. 具体的な研究課題は次の通り. 1. 環境SEMによる高温域でのTiH_2-TiO_2界面反応のin-situ観察 2. X線構造解析によるチタン格子定数の定量評価 3. 固溶強化理論に基づく強化量の数値計算結果と実験値との比較 1ではTiO2粒子からチタン母相(TiH_2粉末)への酸素固溶過程を直接観察し, 2によってチタン結晶格子中の固溶酸素原子の侵入位置を同定する. 以上を踏まえ, 3にて本材における固溶強化メカニズムを解明し, 強化量の制御を行う.
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