本年度は,最終目標とする力学特性(引張強さ>1100 MPa,破断伸び>20%)を備えた高強靭性チタン材を作製した.本研究では,既存チタン合金におけるレアメタル元素添加依存から脱却すべく,資源的に豊富で安価なユビキタス軽元素の活用を試みた.特に,チタンの組織構造制御性と高強度・低コスト化への潜在能力に優れた侵入型元素である『水素』と『酸素』に着目し,『固相状態』での原子配列制御によるチタンの高次機能化に関する材料設計とその製造プロセスを提案・実証した.具体的な材料設計においては,廉価な水素化チタン(TiH2)粉末を原料粉末として直接利用し,脱水素・焼結処理によって所望の微量水素を残留させたTiH2粉末焼結体に熱間押出加工を施すことで,障害物(β相)による結晶粒成長の抑制作用を利用したチタン結晶粒の微細化を試みた.さらに,原料粉末に酸化チタン(TiO2)粒子を添加してチタン結晶格子内に酸素原子を導入し,可動転位の障害とすることで固溶強化を発現し,結晶粒微細化と併せて原子スケールでの異種強化機構の複合化による超高強靭化に挑戦した.開発したチタン粉末押出材(Ti-1.0wt.%O-0.1wt.%H)は,異種強化機構(結晶粒微細化+酸素固溶強化)を原子スケールで複合化することに成功し,UTS:1158 MPa(既存チタン合金比で約1割向上),破断伸び:23.9%(同約4割向上)という最終目標を上回る超高強靭性を発現した.本材は,純Tiをベースとすることで既存合金を超える高延性を発現し,また各強化機構の寄与率は,酸素固溶強化:8割,水素による結晶粒微細化:2割であった.以上より,ユビキタス軽元素である『水素』および『酸素』の積極活用とそれらの原子配列制御に基づく材料設計は,チタンの高次機能化に対して有効であると結論づけられ,次世代ユビキタス材料科学における基礎原理を構築した.
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