研究概要 |
ヒッグス粒子の発見によって, 人類は, 標準模型はこの宇宙をよく記述する良い模型である, と知った。しかし, その要である電弱対称性の破れを標準模型の枠組みの中で実現するためには, 信じられないほど絶妙なチューニングが必要である。このため, 標準模型は何らかの「標準模型を超える物理」の近似である可能性がある。また, この世界に存在する謎の物質「暗黒物質」も, 標準模型では説明できない。電弱対称性の破れと暗黒物質は「標準模型を超える物理」探求のための2つの重要な鍵である。 2013年4月, AMS-02観測グループによって, 宇宙線の陽電子/電子比が理論予言よりも大きいことが発表された。この結果は, 暗黒物質が既知の粒子に徐々に崩壊する不安定な粒子である, と解釈できる。私は特に「R-parityの破れた超対称理論」という枠組みに着目し, 暗黒物質が主として"μ粒子とゲージボソン"や"μニュートリノとヒッグス粒子"に崩壊する模型が, この観測結果と符合することを示した。一方, LHC実験で超対称理論の痕跡が未だ見つかっていない。これはQCD相互作用をする超対称粒子の探索が想定よりも困難だったということであるので, QCD相互作用をしない超対称粒子の探索が重要性を増している。特に"muon g-2"という物理量の標準模型の予言からのズレは, そのような新粒子がLHC実験で探索可能なほどに軽いということを示唆する。この枠組みは「中性粒子とビッグス粒子に崩壊する粒子」がLHCで発見できる, ということを示唆する点で本研究にとって重要であるため, 私も探求を続けている。一方で, 超対称模型が正しかったと分かったときにmuon g-2のズレが本当に超対称模型によるものかを検証することも重要である。私は本年度, ILC実験においてその検証が可能であるということを, 具体的な検証手法および測定精度と共に示した。
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今後の研究の推進方策 |
LHC実験におけるヒッグス粒子の識別精度についての調査・研究が遅れているため, まずはそこに注力する。また, これまでの研究成果は, 超対称模型に依存したものになっている。超対称模型は既存の模型の中で最も有望なものであるのである程度の依存は予期していたが, 今後は模型に依存しない一般論についての研究へと軸足を移す。
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