研究課題/領域番号 |
13J01395
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
信川 久実子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ASTRO-H衛星 / X線CCDカメラ / 銀河面X線放射 / X線天文学 |
研究概要 |
銀河面および銀河中心付近は個々の天体に分解できない空間的に広がったX線放射が存在している。このX線放射の起源については、①真に拡散成分か②空間分解できない微弱な点源(星)の集まりかが主な争点となっている。現実には①と②の混合であろう。解決すべき問題点は①、②のスペクトルと混合比を定量的に明らかにし、①の拡散成分を抽出することである。2015年度打ち上げ予定のASTRO-H衛星に搭載されるマイクロカロリメータSXSはエネルギー分解能が4eVになるため、微細構造線から拡散成分の電子とイオンの運動エネルギーおよび各元素の状態が初めて精密に測定できる。しかしSXSは撮像能力がないためSXI (X線CCDカメラ)の同時観測がエッセンシャルである。そこで所属研究室が開発をしているSXIの地上実験を行い、打ち上げ後すぐに信頼度の高いデータが取得できるように下記の準備を行った。 1. エネルギー分解能やゲインなどは素子ごとに個性があるため、実際のフライト品にX線を当てて測定を行う必要がある。一般的なX線発生装置では高電圧で加速した電子をターゲットに衝突させることでX線を発生させるが、衛星搭載品の測定に高電圧を用いるのは危険が伴う。そこで私はより安全な方法としてα線源を用いたX線発生装置を開発し、1keV以下から10keV以上にわたるX線を単色で発生させることに成功した。 2. 軌道上のCCDは宇宙放射線による損傷を受けることで内部に格子欠陥などのトラップができる。すると信号電荷が転送中にトラップに捕えられるためゲインとエネルギー分解能が悪化する。これを防ぐためSXIでは電荷注入法を導入する。電荷注入法では信号電荷の転送前に人工電荷でトラップを埋めることで信号電荷の損失を防ぐ。(1)のX線発生装置をフライト品と同等の素子に照射しながら電荷注入を行ったところ、エネルギー分解能が~200 eVから~180 eVに改善した。しかしトラップを埋めた人工電荷は転送中に放出されてしまうため、CCD上の場所ごとに電荷損失量が異なり、ゲインがばらつく。私はゲインのばらつきを補正するためにモデルを構築し、補正前は0.5%程度あったばらつきをフライト品への要求値である0.1%以内に減少させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ASTRO-H衛星搭載のX線CCDカメラSXIのフライト品と同等の素子を用いて地上較正試験を行った。その結果、電荷注入法が効果的に機能しSXIの性能が良くなること、また、データ較正の手法を確立し、これまでの衛星搭載X線CCDカメラよりも較正精度が達成できることの検証に成功した。以上より、本来の計画通りに研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
すざく衛星を用いて、銀河中心付近のケイ素、硫黄、アルゴン、カルシウム、鉄などすべての高電離元素輝線の強度と等価幅の分布を定量的に求める。先行研究では、少なくとも鉄輝線強度は銀河系西側より東側の方が強いという兆候が得られている。点源成分は無数の星の重ね合わせであるので統計のゆらぎは小さく、東西で違いは現れないはずだ。すなわち拡散成分が東側で強い可能性がある。すでに観測済みの銀河中心の西側のデータに加え、2014年4月に観測したばかりの東側のデータを用いて、鉄を含め他の元素についても東西の違いを定量的に調べる。
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