本研究の主たる対象である北村季吟は古典学史を考える上では看過できない人物である。中世以来の古典学の集成者とされてきた季吟が、伝授書と公刊物とで明確に方法を異にしている点は見逃せない。そこで本研究では、季吟の伝授書について、その成立や内容を詳細に検討し、公刊物との比較をすることによって、伝授書と公刊物、それぞれのより的確な特質の把握や位相の差を明らかにし、諸注集成に従事するばかりではない、古典学者としての新たな季吟像を提示することを目指した。 そのための手段として、北村季吟から柳沢吉保への伝授書である日本大学総合学術情報センター蔵「古今集并歌書品々御伝受之書」(7種19冊)に着目し、その調査研究を行った。また、該書の一部は未影印・未翻刻資料であるため、広く一般に供すべく、その翻刻を公開した。 本研究期間の成果として、該書についての調査研究の結果を宮川真弥「北村季吟の源氏学(一)―附・日本大学総合学術情報センター蔵『源氏物語微意 上』翻刻―」(『詞林』第57号、2015/4/20)に論文化し、該書の一部である『源氏物語微意』上巻の翻刻を公開した。中・下巻についても、翌年度に公開の予定である。 上記の論考において、塗箱の一致により、該書がもとは柳沢文庫蔵「古今集并歌書品々御伝受御書付」と揃いで柳沢家に伝えられていたこと、および該書の伝授過程として二期にわけて授与されたことを指摘した。また、『源氏物語微意』と板本『湖月抄』との関係性についても明らかにした。 該書の調査研究に加えて、無窮会蔵『北村季任聞書』や天理図書館蔵『源氏物語打聞』など、季吟の古典学に関する資料についての調査研究も進めているところである。
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