まず大学・研究機関・国立国会図書館等において日本の狩猟制度・狩猟文化の動向に関する文献収集を行い、20世紀における狩猟制度の歴史や狩猟者像の変容についての分析を進めた。そのうえで上記の文献調査の成果とこれまでの野外調査の内容とを踏まえて、論文「ガイドを伴う狩猟活動の特徴―北海道西興部村猟区におけるエゾシカ猟を事例に―」を雑誌『旅の文化研究所研究報告』に投稿している。この論文では西興部村猟区で行われるガイドを伴った狩猟について、狩猟者の銃猟技術と観光行動とを結びつけた「狩猟観光」という作業概念を用いることで、現代の日本社会において趣味や楽しみのために居住地域を離れた特定の猟場において猟を行う狩猟の実態を明らかにした。 また北海道紋別郡西興部村を中心とした現地調査を行い、熟練狩猟者の方からクマ猟・エゾシカ猟の歴史についての聞き取り、及び年配の方からクマ猟を盛んに行っていた時期における、農業・林業を中心とした生活文化全般についての聞き取りを行っている。この聞き取りにより、ウサギやリス、キツネやクマを対象とした単独猟や共同猟による多様な猟法から、現在のエゾシカを対象とする自動車を用いて獲物を捜索する流し猟への変容過程についての素描を明らかにしている。 この他に、日本国内で行われている狩猟に関するセミナー・ワークショップへの参加、ならびに筆者の狩猟免許取得に伴う過程を通じて、現代の狩猟活動における経験知が猟友会内部における知識の継承のほかに、様々な人びとが集うセミナーやワークショップの場においても知識の継承が行われ始めていることを把握している。
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