研究課題/領域番号 |
13J01442
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岡川 朋弘 北海道大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 免疫抑制受容体 / PD-1 / LAG-3 / 疲弊化T細胞 / キメラ抗体 / 牛白血病 / ヨーネ病 / 難治性疾病 |
研究実績の概要 |
本研究では、ウシの免疫抑制受容体PD-1やLAG-3に対する分子標的薬(キメラ抗体)を開発し、ウシ白血病ウイルス(BLV)感染症やヨーネ病をはじめとした難治性疾病に対する新規制御法を樹立することを目的としている。 まず、昨年度樹立した抗ウシPD-1ラット-ウシキメラ抗体発現細胞株(CHO DG44細胞株)について、メトトレキサートを用いた遺伝子増幅処理を行い、発現細胞に導入した遺伝子カセットのコピー数増幅を試みた。現時点で、91.7 mg/Lの抗PD-1キメラ抗体を産生する安定発現細胞を樹立した。また、Expi293F細胞による一過性発現系も導入し、224.3 mg/Lの抗PD-1キメラ抗体を産生させることに成功した。 次に、昨年度樹立した抗ウシLAG-3ラットモノクローナル抗体の可変領域遺伝子を同定し、ウシIgG1の定常領域遺伝子と組み合わせて、抗ウシLAG-3ラット-ウシキメラ抗体の発現プラスミドを作製した。この発現プラスミドを哺乳類細胞株CHO DG44へ導入した後、2,688ウェル分の発現細胞を作製し、この中から目的のキメラ抗体を高産生するクローンを10種類選抜した。これまでに8.85 mg/Lの抗LAG-3キメラ抗体を産生する安定発現細胞を得た。 さらに、ウシPD-1発現細胞およびウシLAG-3発現細胞に対する各キメラ抗体の結合性をフローサイトメトリー法にて検討した。その結果、いずれのキメラ抗体もラットモノクローナル抗体と同様に細胞膜上のPD-1またはLAG-3を認識した。次に、BLV感染牛のT細胞に対する再活性化効果を検討した。抗PD-1キメラ抗体は一部の感染牛でT細胞からのIFN-gamma産生を再活性化し、B細胞におけるBLVウイルスタンパク質の産生を阻害した。一方、抗LAG-3キメラ抗体はほとんどの感染牛でT細胞からのIFN-gamma産生を再活性化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の年度計画にあった通り、抗ウシPD-1ならびにLAG-3ラット-ウシキメラ抗体の作製を進め、抗PD-1キメラ抗体については、平成27年度に予定しているウシを用いた臨床試験に必要なキメラ抗体を作製することに成功した。抗LAG-3キメラ抗体の樹立については平成26~27年度にかけて2年間で行う計画であったが、現時点では当初の計画通りPD-1に追随する形で発現細胞株の樹立を進めている。 また、今年度は作製したキメラ抗体を用いて機能試験を行い、in vitroでの生物活性を示した。2種類のキメラ抗体は想定通りそれぞれウシPD-1とLAG-3へ結合し、BLV感染牛のT細胞を再活性化した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、抗PD-1, LAG-3キメラ抗体の安定発現細胞(CHO DG44細胞)の産生量をさらに増加させるため、これらの細胞株に対してメトトレキサートを用いた遺伝子増幅処理を継続する予定である。順調に進めば、平成27年度中に最終的な目標産生量(1-2g/L)の発現細胞株が樹立できる見込みである。 また、安定発現系(CHO DG44細胞)、および一過性発現系(Expi293F細胞)のいずれについても、培養のスケールアップを行い、0.5-1gのキメラ抗体を生産する。その際には、大量の培養上清からの抗体精製が可能なバッチ法による精製を試みる。 そして、これらの発現系で作製したキメラ抗体について、BLV感染牛を用いた臨床試験を行なう。キメラ抗体を投与した前後で、ウシのT細胞応答や抗BLV効果の変化や、キメラ抗体の血中半減期をモニタリングし、キメラ抗体の生体内での効果を検討する。また、試験牛の全身状態の観察とバイタルサイン(体温・心拍数・呼吸数)の測定を行い、キメラ抗体の投与による副作用の有無(安全性)を確かめる。
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