研究実績の概要 |
含窒素芳香環化合物の塩酸塩を基質とする触媒的不斉水素化反応における反応機構解明 キラルな環状アミン骨格は天然物など様々な生理活性化合物に見られる重要な骨格であるため、その効率的合成法の開発が求められています。含窒素芳香環化合物の触媒的不斉水素化反応はキラルな環状アミンを得る最も直接的な方法であると考えられますが、含窒素芳香環化合物はその安定性のために反応性が低く、生成物アミンによる触媒の失活が起こるため、窒素上イリド形成や窒素原子上のベンジル基の導入が不可欠でした。しかしながらこれらの手法では不斉水素化後に脱保護が必要であるという改善点が残されていました。一方、本研究員はこれまでの研究により、イソキノリンおよびピリジンの不斉水素化反応において基質をハロゲン化水素酸塩へと誘導することで反応性およびエナンチオ選択性の向上に成功しました。反応性が向上する理由に関しては、生成物である塩基性の高いアミンを酸により補足することで触媒の失活を抑えているという知見を得ていましたが、エナンチオ選択性が向上するメカニズムに関しては不明瞭でした。そこで1H および 31P NMR 測定により反応中間体の補足を試みたところ、イソキノリン塩酸塩由来の塩素アニオンは触媒のイリジウム中心に相互作用し、アニオン性イリジウムヒドリド錯体を形成することや、塩化物イオンを介した六員環遷移状態を経てヒドリド攻撃が進行する新たな反応機構を支持する結果を得ました。この成果の一部は学術論文に発表し、表紙絵にも選ばれました。 [研究発表参照: “Enhancing Effects of Salt Formation on Catalytic Hydrogenation of Isoquinolinium Salts by Dinuclear Halide-Bridged Iridium Complexes Bearing Chiral Diphosphine Ligands,” Chemistry A European Journal, 2015, 21, (5), 1915-1927.
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