研究課題
平成26年度は、西南日本宮崎県上村に露出する上部ペルム系-中部三畳系の上村石灰岩のバイオマーカー処理を主に行った。また、既存の南中国の下部‐中部三畳紀のサンプルについてさらに詳細な有機地球科学的分析(個々の有機物のGC-IRMSによる同位体比測定および、GC-MSMSによる分析)を行い、当時の溶存酸素環境変動、海陸の一次生産者の相対的活動度、及び古細菌の炭化水素含有量が高い特殊な微生物礁の発達環境について調べた。研究の結果、西南日本の上村セクションの上部ペルム系-中部三畳系からは、当時の堆積場の還元的環境を示す堆積有機分子が検出された。前期三畳紀の間に3度 特に高い値を示した。これらの還元環境の発達時期は南中国の還元環境発達時期と一致していた。当時南中国と西南日本は地理的に大きく離れており、離れた2地点における還元環境の同時発達は、これらの還元環境がグローバルなイベントである可能性を示唆する。海洋の一次生産者の相対的活動度についても研究結果が得られた。南中国の下部-中部三畳系の試料について、GC-MSMSによる分析を行ったところ、前期-中期三畳紀の間に一次生産者の活動が何度も変化しており、この活動度の変化が気候変動及び炭素循環に影響を与えている可能性があることが分かった。さらには、南中国の前期三畳紀後期の還元環境発達直後に造礁された微生物礁について、個々の有機物についてGC-IRMSで炭素同位体比の測定を行ったところ、この微生物礁の発達時期とその前の還元環境発達時期において、光合成活動が活発になっていることが分かった。また、この微生物礁に含まれる古細菌の起源について、高度好塩分古細菌が一候補であることが分かった。これらの事実は、この微生物礁が底棲動物が還元環境により一掃された後に、光合成生物の活動が活発かつ、塩分濃度が比較的高い環境で形成されたことを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
前期三畳紀の間の還元環境変動の地理的分布および時間変化を明らかにし、それがペルム紀末大量絶滅からの回復の遅れに寄与していた可能性を示唆できたため。また、前期三畳紀の間の炭素循環および気候変動と、一次生産者の関連性を示唆できたため。それから、前期三畳紀に形成された微生物礁の形成環境をより詳細に明らかにすることができたため。
今までの研究結果から、南中国および西南日本の地域の前期三畳紀の間の地球環境変動をある程度把握でき、特に還元環境について、グローバル性があることを発見できた。今後は欧州の前期三畳系について、地球化学的分析を行い、より広範囲の地理的分布および時間変化を明らかにし、グローバルな視点まで拡大できるように研究していく。
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Organic Geochemistry
巻: 73 ページ: 113-122
10.1016/j.orggeochem.2014.05.007