採用3年目も、充実した研究成果を挙げた。とくに、研究テーマである小児Ⅰ型糖尿病についての国内外での調査や研究会発表はもちろん、小児医療の領域における社会科学的貢献に努めたといえる。小児慢性疾患の当事者を対象とした領域において、専門家や関係者のみならず第三者らからの評価が得られたことは、極めて重要な経験であった。 具体的に、研究対象として①小児Ⅰ型糖尿病、②ダウン症や自閉症、③発達障害の3つで、発揮されている。これらに共通することは、第一に、子ども期発症であること、第二に、疾患を原因とする死亡率が極めて低いこと、第三に、日常生活を営んでゆくうえで独自のスキルを身体化させなければならないこと、の3つである。これらは、研究成果においても反映されており、毎月1回、医学・薬学関係の勉強会に講師として招かれた。 教育学者や心理学者、教師や医師とのかかわりあいのなかでも社会学の研究者であることが広く周知されていた。なかでも、医学者や薬学者とのかかわりのなかで彼らが刺激を受けたのは、当事者の生のリアリティを単なる症状の変化として捉えなかった点である。さまざまな社会的要因や外部機制が当事者に影響を及ぼすことで、彼らの生もまた変化することを解明したことは医学者や薬学者にとって新鮮であったようである。 海外での調査や研究会発表においてもこのことは当てはまる。たとえば、世界でもっともⅠ型糖尿病者の多いフィンランド(日本の約37倍)のヘルシンキ大学のアヌ教授などは非常に関心を示しており、次年度以降も共に研究を継続したい旨申し出を受けている。 研究代表者の強みのひとつは、自然科学の領域における研究者に対して、社会学の立場からインパクトを与えることができることである。いまひとつは、当事者の経験の語りを忍耐強く聞き取るという社会学の方法論を駆使した幅広い研究が継続できていることである。
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