研究課題/領域番号 |
13J01543
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
多羅間 大輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Hamilton力学系 / Birkhoff標準形 / 完全積分可能系 / 楕円ファイバー空間 / モノドロミー / 安定性解析 / Lie環論 / 剛体 |
研究実績の概要 |
2014年度は,1自由度Hamilton力学系のBirkhoff標準形の解析接続による大域的挙動について,フランスの共同研究者との共著論文2編が学術誌に採択決定された.これらの論文では単振子や自由剛体(SO(3)上の左不変計量に関する可積分測地流)の力学系の場合にエネルギー値や力学系の自然なパラメータに関する解析接続を行って,Birkhoff標準形の大域的な性質として非自明なモノドロミーがあることを示し,その具体的計算を行った.特に,自由剛体の力学系の場合には,Birkhoff標準形の逆函数微分の解析接続によるモノドロミーと力学系に付随して自然に現れる楕円ファイバー空間のモノドロミーとが一致することが示された. 自由剛体の力学系はより一般のLie群上の左不変計量に関する可積分測地流の力学系へと拡張されている.この力学系の平衡点の安定性はSO(n)の場合を除いて未解明であった.そこで,まずU(n)の場合に孤立平衡点の安定性解析を行って一般に全ての孤立平衡点は楕円型(安定)であることを示した.この結果についてはスイスの共同研究者との共著論文を著し,証明で用いるbi-Hamilton構造に関する議論について大幅な改稿を経て現在学術誌へ投稿中である.さらに,複素半単純Lie群の正規実形・コンパクト実形の場合には一般に全ての孤立平衡点はそれぞれ双曲型(不安定)・楕円型(安定)になることが示された.これについても同じ共同研究者との別の共著論文にまとめた.この論文は現在改稿中であり,最近C型の単純Lie群の正規実形でもコンパクト実形でもない実形上の可積分な力学系であるBloch-Iserles系に関して全ての孤立平衡点が楕円型となることが判明したため,この新たな結果を盛り込む予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1自由度Hamilton力学系のBirkhoff標準形の解析接続による大域的挙動について,2013年度に得られた結果を基にした投稿中の2編の論文(フランスの共同研究者との共著)が,大幅な改稿を経て受理された.同様に一般自由度の完全積分可能なHamilton力学系のBirkhoff標準形の大域的挙動については現在研究途中であるが,現在までに保存量のBirkhoff標準形の逆函数微分についての周期積分表示が得られており,今後具体的な系においてモノドロミー等の計算を行う予定である.特に,Lagrangeのコマの力学系について,系に付随する複素曲面の複素解析幾何学的構造とBirkhoff標準形の大域的挙動との関係を現在研究中である.Kowalevskyのコマの力学系の場合の解析や摂動を加えた非可積分系についても,2015年度に研究を行う予定である. Lie群上の左不変計量に関する可積分測地流の力学系について,U(n)の場合の結果について得られていた結果をまとめた論文(スイスの研究者との共著)を大幅な改稿の後投稿した.C型の単純Lie群の正規実形でもコンパクト実形でもない実形上の可積分力学系であるBloch-Iserles系の孤立平衡点が一般に全て楕円型であることが示された.これによって,摂動を加えない可積分系についても平衡点の安定性は当初の予想より複雑であることが判明し,一般の複素半単純Lie群の正規実形でもコンパクト実形でもない実形の場合について平衡点の安定性をより詳細に解析する必要があることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は以下のような研究を行って,研究計画を推進する. Lagrangeのコマ・Kowalevskyのコマの力学系や完全流体中の剛体の運動を記述する力学系について,付随する複素曲面族の退化をBirkhoff標準形の大域的性質と関係付けて考察する.さらに,これらの可積分系の摂動系として得られる非可積分系についても,複素解析幾何学的な視点から研究を行う. 一方,一般のLie群上の左不変計量に関する可積分測地流の力学系については,複素半単純Lie群の正規実形でもコンパクト実形でもない実形の場合に孤立平衡点の安定性解析をより詳細に行う.また,正規実形・コンパクト実形の交叉に制限された力学系に関しても孤立平衡点の安定性を解析する.さらに,これらの可積分系にポテンシャル項による摂動を加えて得られる非可積分系に関して,その分岐を調べる. これらの研究の成果について,論文の執筆・学術誌への投稿を行い,積極的に研究集会等での発表を行う.
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