研究実績の概要 |
これまでに私は、フラビウイルス特異的抵抗性因子OAS (Oas1b)による感染防御機構の解明を目的として研究を行なった。その結果マウス感染時にフラビウイルスの強毒株では、Oas1bに対する耐性が高いのに対し、弱毒株では耐性が低いことを明らかにし、この耐性の違いがフラビウイルスの株間の病原性の相違に関わることが示唆された。次に私はOas1bに対する耐性の差以外に、病原性の相違を決定するウイルス側因子を特定するため、リバースジェネティクス法を用いて強毒株と弱毒株間で組換ウイルスを作製し、マウスにおける病原性の比較を行った。実験には、フラビウイルス属のダニ媒介性脳炎ウイルスを用いた。 本研究ではウイルスゲノムの全領域を11の領域に分け、高病原性TBEVのSofjin株の各領域を、低病原性のOshima株に導入した組換ウイルスを作製した。これらの組換ウイルスをマウスに皮下接種し、その病原性を親株であるOshima株と比較することで、病原性決定因子の特定を試みた。その結果、多くのキメラウイルスで病原性の上昇が見られ、一部の非構造蛋白,及び5'-, 3'-非翻訳領域(UTR)などの、複数のウイルス側因子によって高い病原性が発現することが示唆された。その中でも、Sofjin株の3'-UTR variable regionを導入したキメラウイルスでは、最も著明な病原性の上昇が見られ、本領域が病原性に重要であることが明らかとなった。 以上の本研究結果から、極東型TBEVの株間の病原性の相違は、複数のウイルス側因子によって決定され、その中でも特に3'-UTR variable regionが重要であることが明らかとなった。これらの成績は、今後TBEVをはじめとするフラビウイルスの病態発現機構の解明と、ワクチン及び予防・治療法の開発に大きく貢献するものと期待される
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