研究課題/領域番号 |
13J01600
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
友成 有紀 広島大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | パーニニ文法学 |
研究実績の概要 |
インドの古典文法学についての研究について,研究者は,特定の自然言語についての文法理論としての整合性などを評価・検証するという言語学的興味の上に成立するもの,言語哲学と今日呼び習わされる学問領域が取り扱う諸問題に関わる思想の解明,そして「古典インド」という時間的・地理的コンテクストにこの稀有なる学問伝統がどのように息づいていたのかを考証する思想史的試みという大雑把に分けて三つの方法論を取りうるものと思われる。無論いずれもが相互に独立しているわけではなく各々はパーニニ文法というひとつの対象の様々な相を限定的に理解するための手法にすぎない。本研究は主として第三の思想史的試みに重きを置くものとして始められた。本年度はパーニニ文法学の方法論的問題、すなわち、パーニニ文法学の志向する「教養知識人(シシュタ)の言語」と、現実の言語使用との間に乖離はありうるのか、あるのだとしたらどのようにその間隙は埋められることとなったのかという問題を、七世紀のミーマーンサー学者・クマーリラによる文法学批判に基づいて研究し発表を行った。「サンスクリット語」の特徴の一つとして、「紀元前にパーニニ(などの文法学者)によって完成され、以来二千余年に亘って不変である」と語られることがある。人工言語ならばいざしらず、自然言語にこのような特徴は妥当しうるだろうか。文献的な証拠に基づいて、文法学者たちが従来の文法体系では説明できない語形の正しさを証明するために発展させた、新規語形を理論上無限に文法操作の対象として読み込むことができる「語形リスト(アークリティ・ガナ)」という理論上のブレイクスルーについて論じた。有限の文法規則と無限の言語使用の根本的な二項対立に優れた融和策を見出した文法学者の手腕は賞賛に値するが,聖典言語の不変性を信条とする一部の伝統学者には批判を受けていることも見逃せない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カーラカ理論という当初の研究対象についての研究としては未だ不十分な部分が少なからずあるが,本来の目的である文法理論の歴史的発展という観点からは,文法学者自身の見出した理論上のブレイク・スルーなど,後代の規範文法化につながる要因について理解が深まったからである。
|
今後の研究の推進方策 |
カーラカ理論,とりわけ第四格(チャトゥルティー)接尾辞とその意味について,現在までの研究の主軸となっている「有限の文法規則と無限の言語使用」という観点から従来指摘されていない複合語解釈に纏わる議論などを研究し,平成27年度中に発表を予定している。また,前年度の研究を更に発展させたものを6月28日からタイ・バンコクで開催される国際サンスクリット会議で発表する予定である。
|