研究概要 |
炎症細胞浸潤が認められるような局所では、Helicobacter pylori(以下 : ピロリ菌)とEpstein-Barr virus(以下 : EBウイルス)の共局在が認められる。私は、ピロリ菌による慢性胃炎がEBウイルスを活性化し、EBV関連胃がんの発症リスクを高めていると考えた。ピロリ菌によるEBウイルス活性化メカニズムを明らかにすることを本実験の目的とし、まず胃上皮細胞におけるピロリ菌とEBウイルスの二重感染実験を行い、実験的に本現象を再現できるか検討した。 まず最初に、ヒト胃上皮細胞由来のAGS細胞において、EBウイルス感染細胞数はピロリ菌存在下で有意に上昇し、EBウイルス由来の潜伏感染関連遺伝子であるEBER1遺伝子もピロリ菌の濃度依存的に上昇することを確認した。 続いて、EBウイルスを活性化するピロリ菌の病原因子を解明する為に、まずはピロリ菌の病原毒素であるCagAおよびVacAに焦点をあて、それぞれ又は両遺伝子のノックアウト株の作製を行った。ノックアウト株を用いてEBウイルス感染増強を確かめた結果、野生型と同様にノックアウト株においてもEBウイルス感染率及びEBウイルス由来の潜伏感染遺伝子であるEBNA1遺伝子の発現上昇が認められ、ピロリ菌毒素(CagA, VacA)はEBウイルス感染増強に寄与しないことが明らかになった。しかしピロリ菌LPS、又は大腸菌LPSをAGS細胞に作用させたところ、EBERIならびにEBNAI遺伝子の発現上昇が認められた。 これらの結果から、LPSの受容体であるTLR4のシグナルによりEBウイルス感染増強が起きると推察された。EBウイルス関連胃がん発症のプロセスは、LPSを主とする自然シグナル応答の結果引き起こされると考えられる。
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