研究課題/領域番号 |
13J01668
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西 惠野 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 能 / 囃子伝書 / 太鼓伝書 / 観世国広 |
研究概要 |
平成25年度においては、観世国広執筆『永禄十二年奥書太鼓伝書(上・下)』の全文翻刻作業を終了し、その内容検討を行った。まず、翻刻作業の完了に関しては、自身ばかりでなく他の研究者もすぐに利用が可能な史料とすることができたことは大きな成果であった。現存する全ての太鼓伝書の源流でありながら、これまで未整理であった史料を誰もが扱える状態にしたからである。そして内容の検討についてであるが、世阿弥伝書・謡伝書・他の囃子伝書や必要に応じて他分野の文献を主な比較史料としながら、伝書中に用いられている用語の解釈、記されている能の曲に着目しての記事内容の解明といったことを中心に考察を行った。具体的に今年度は、伝書中で互いを比較対象としながら記述されている「菩薩の能」と「天人の能」について考察した。「菩薩の能」と「天人の能」は、どちらも「心弾むように打つ」ものであることは共通しているが、「菩薩の能」は「敬虔」な、「天人の能」は「ひたすら高揚した」心持でなければならないと説かれている。この違いはなぜ生じているのかを考え、自身の太鼓の稽古経験も活かして実際に現代ではどのような打ち方がされているのかも参考にしながら、ふたつの能を隔てるのは「女人成仏」にという概念に対する国広の理解であったのではないかと結論づけた。この考察結果は、待兼山芸術学会にて口頭発表し、学会誌『フィロカリア』にて論文として投稿し掲載された。これまで、音楽面あるいは史料・資料面どちらかの側面からのみのアプローチであったのに対し、両側面から『永禄十二年奥書太鼓伝書(上・下)』の内容検討を行ったことは、今後の能楽研究や囃子伝書研究に大きく貢献するものである。実践面のみ、文献面のみからの考察に陥りがちな現在の能楽研究において、両方の側面からの研究結果はさらなる研究発展につながる新たな視点・着眼点を与える契機となるからである。本年度は、太鼓伝書研究において実演研究と史料・資料研究の両方に寄与できる重要な成果を残せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで未整理であった、太鼓伝書群の中でももっとも重要と考えられる観世国広執筆『永禄十二年奥書太鼓伝書(上・下)』の全文翻刻により、原資料の体系的な整理が大きく前進した。現在、伝書の詳細な検討を行っており、膨大な量があるので少々時間がかかっているものの、多角的な視点からの考察結果を出している。したがって本研究の目的である、太鼓伝書より「太鼓の位置付け」に対する考え方を抽出し、太鼓(役者)の視点から「太鼓と能はどのような関係性を築こうとしてきたのか」を示すことについて、順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、観世国広執筆『永禄十二年奥書太鼓伝書(上・下)』の全文翻刻と内容考察については順調に進展してきているが、本研究でもうひとつ研究対象にしている太鼓の「手附」の検討に関してはいまだ着手できていない。これは、手附が伝書そのものよりさらに未整理であること、写本・版本の影響関係の判断が非常に難しいこと、技術的な知識がなければ理解できないことなどが理由である。しかし、手附と伝書はほぼ一対のものである。したがって、まずは現代の演能時に使用されている太鼓の手附に絞り、『鴻山文庫蔵能楽資料解題 下』に記載されている太鼓金春流・観世流の主な手附を網羅的に調査する。そして、時代的には現代のものからより古い手附へ遡っていく方針をとる。今年度は、この調査を伝書の内容検討と同時に行う。研究計画に変更はない。問題点としては、手附が各地に散逸していたり、各太鼓方で保管していて見ることができなかったりする場合がある。その際には、原則として法政大学能楽研究所に保存しているものを中心史料に据え、各太鼓方と直接交渉して学術的にどこまで公開できるか話し合いを設ける対策をとる。
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