本研究は、能で使用される太鼓に着目し、「太鼓の在り方」について記された太鼓伝書の内容検討を中心に他楽器(笛・小鼓・大鼓)の伝書や謡伝書との比較を通じて、能における太鼓の役割・位置付けについて明らかにしていくものである。太鼓伝書より「太鼓の位置付け」に対する考え方を抽出し、太鼓(役者)の視点から「太鼓と能はどのような関係性を築こうとしてきたのか」を示すこと、それによって今後の能楽研究に新たな視座を提供することを目的とする。 この研究の成果としては、現存する全ての太鼓伝書の源流となった観世国広執筆『永禄十二年奥書太鼓伝書(上・下)』の全文翻刻作業を完了させた。これにより、今後あらゆる太鼓伝書を扱う際の比較・参考史料とすることができるようになった。また、他の能楽研究者もこの成果を自身の研究に利用することが可能となった。これは能楽研究に貢献する大きな成果であるといえよう。今年度は、この成果をふまえて内容検討についてを重点的に行った。他の囃子伝書や謡伝書との比較を通して、使用されている用語および言い回しの意味や執筆者・観世国広の意図の解釈した。また、観世国広の父・国忠の流れを汲む『天文四年加納入道太鼓伝書』の全文翻刻も完了させ、それぞれの太鼓伝書の影響関係の整理や国広周辺の伝書執筆事情についての考察も行った。これらの考察結果は、学会(民族藝術学会など)や研究会(六麓会など)における口頭発表を中心に発信した。現在は口頭発表の内容を論文化する作業を進めており、これから学会誌に投稿していく予定である。太鼓伝書に焦点を当てた考察は現在もほとんど行われていないことから、今後も能楽研究に多角的視点を与える重要な意義を持つ研究となっていくと考えられる。
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