研究概要 |
1. ナノカーボンの近赤外光誘起解離・転位反応の動力学解明とその制御 : 波形整形パルスを用いて単層カーボンナノチューブ(CNT)などのナノカーボンの特定の振動モードを選択励起することで誘起される代表的な欠陥生成反応であるStone-Wales転位(SWR, C=C結合が90度回転する反応)と解離反応の機構の解明を目指して理論研究を行った. 具体的には, レーザー電場によるポテンシャル曲面(PES)の変形を適切に評価できる時間依存断熱状態法とナノカーボンの解離反応を半定量的に再現できるSelf-consistent charge density-fUnctional based tight binding (SCC-DFTB)法を組み合わせ、近赤外パルスの幅T_pやパルス列の間隔を適切に調節することで, C_60の振動モード間のエネルギー移動を制御できることを見いだした. 2. フラーレン超多価カチオンC_<60>^<q+>(q=20-60)における光誘起解離動力学の解明 : X線自由電子レーザー(XFEL)をフラーレンC_<60>に照射した際に生成する超多価カチオンC_<60>^<q+>(q=20-60)の解離機構を勲力学的に解明し, ナノ分子多価カチオンの超高速解離反応に対して一般的に適用できるような反応機構を提案した. 具体的には, 電荷q=20,28,60(閉殻構造)初期余剰振動エネルギーE_<in>=100eVの場合の解離反応についてSCC-DFTB法によるトラジェクトリ計算を実行した. なお, 本計算では中性C_<60>の最安定構造からC_<60>^<q+>へと瞬時に垂直イオン化されると仮定した. その結果, qやE_<in>に関係なく爆発的な2段階機構で1ps以内に解離していくことを見いだした. この機構では, 多価の原子カチオンC^<z+>(z=2-4)がクーロン反発によって10-20fs程度で放出された後に, 解離せずに残っている炭素クラスターからC_n<z+>(n=1, z=1,2)が熱的に脱離する. なお, qが小さくなるにつれて放出される分子カチオンのサイズが大きくなり, 中性の原子・分子フラグメントも放出されるようになる. 本成果は近日中にJ. Phys. Chem. Lett. に投稿する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザー電場によるホテンシャル曲面(PES)の変形を適切に評価できる時間依存断熱状態法とナノカーボンの解離反応を半定量的に再現できるSelf-consistent charge density-functional based tight binding (SCC-DFTB)法を組み合わせ、近赤外パルスの幅T^pやパルス列の間隔を適切に調節することで, C_<60>の振動モード間のエネルギー移動を制御できることを見い出すことに成功し, 国際学会(査読つき)で発表を行うことが出来た. また, C_<60>^q+(q=20-60)qやE_<in>に関係なく爆発的なクーロン爆発と熱的脱離の2段階機構で1ps以内に解離していくことを見いだした. 本結果は海外の著名研究室における研究室セミナーにおいて招待講演として複数回紹介することが出来た. また, 近日近日中にJ. Phys. Chem. Lett.に投稿する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は, 電子励起状態を経由する非断熱SWRを効率良く誘起する近赤外パルスを実時間時間依存DFTB法を用いた動力学計算に基づいて設計する. また, C_<60>^q+超多価カチオンの2段階爆発機構が逐次イオン化によってどの様に変化するかを調べるために, 初期余剰運動エネルギーE_<ex>=100-600eVをC_<60>の電荷増加にあわせて段階的に注入した場合のトラジェクトリを計算する. そして, 生成する解離種の分岐比や運動エネルギー分布がE_<ex>の増加につれてどの様に変化するかを調べる. q・E_<ex>・イオン化の時間間隔Δt等の条件を変えて複数回の計算し統計的な解析を行う.
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