本年度は,X線自由電子レーザー(XFEL)の光とナノカーボンの相互作用にも研究対象を広げ,内殻励起によって生成するフラーレン超多価カチオンC60q+ (q = 20-60) の解離機構も解明した.電荷qによらず,正電荷間のクーロン反発によって多価原子カチオンが10-20 fs程度で非統計的に放出されるクーロン爆発が起こり,続いて中性・1価分子フラグメントの統計的脱離が起こるという2段階機構を明らかにした.
また,クーロン爆発過程が解離直前の分子構造を鋭敏に反映することを利用してナノ分子の構造変化をフェムト秒オーダーの時間分解能でイメージングする新たな手法を開発することに成功した.この手法では,時間の異なる2つの2次元フラグメント運動量分布の共分散を計算することで分子形状の変化を抽出する.本年度は特に,C60の近赤外レーザーパルス誘起コヒーレント振動のイメージングに原理検証として取り組んだ.その結果,C60の偏長・扁平(hg(1))振動による構造の変化を明瞭に運動量分布から抽出することに成功した(論文投稿準備中).現在,開発した手法の鋭敏性と安定性を高めるべく更なるアルゴリズムの改良を行っている.また,より複雑な構造を持つナノ分子のダイナミクス抽出につなげるために,クーロン爆発開始直前におけるC60の電荷分布と生成フラグメントの運動量分布にどの様な相関が見られるかについて解析を進めている.
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