研究概要 |
光線力学療法は、組織の中に導入した光増感剤を照射し、励起状態の光増感剤の消光過程で発生する活性酸素種により、効果的にがん組織を破壊する抗がん治療法である。本研究は、励起状態の光増感剤から形成された一重項酸素の検出、さらにその拡散や反応機構について単一分子レベルで明らかにすることを目指している。したがって、本格的な細胞実験を行う前に、一重項酸素検出に使える最も効果的な蛍光プローブを選ぶことが非常に重要である。平成25年度は、市販の一重項酸素プローブであるSinglet Oxygen Sensor Green (SOSG, Molecular Probe)の物性評価と新しい一重項酸素プローブ開発に取り組んだ。 SOSGは発色団のfluorescein誘導体に一重項酸素を捕獲する9,10-dimethylanthracene (DMA)が共有結合によってつながっている分子であり、一重項酸素センサーとして最もよく使われてきた市販品である。我々は時間分解分光法を通じて、SOSGの光化学的な性質を定量的に調べた。その結果、市販品であるSOSGの中では、約0.5%の無修飾fluorescein誘導体、そして空気中の酸素との反応により、すでにDMAが酸化されているものが微量含まれており、その'不純物'の三重項励起状態が一重項酸素を生成する原因であることを過渡吸収測定によって究明した(一重項酸素生成の量子収率=0.06)。また、SOSGは紫外線励起(355㎜)によって光イオン化されたfluorescein誘導体ラジカルカチオン種になることがわかった(光イオン化の量子収率=0.003、レーザー強度=24mJcm^<-2>)。続いて、得られた結果をもとに、細胞内の一重項酸素検出に適している新しい蛍光プローブの開発を行った。SOSGは自己酸化の問題ではなく、細胞内への透過性が低く、細胞内で発生する一重項酸素の検出に向いてないことが以前から指摘されてきた。そこで、我々は優れた光安定性や細胞内への高い透過率、かつ、細胞内場所選択性を有する発色団を用い、新しい一重項酸素の蛍光プローブの開発と細胞内の一重項酸素のイメージングに成功した。
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