研究課題
近年,カゴ状結晶構造をもつ化合物の多彩な物性が注目を集めている。私は,4f電子を2個持つPrイオンがカゴに内包されたPrT2Zn20 (T:遷移金属)に着目した。この系の結晶場基底状態は,磁気双極子の自由度を持たず,四極子と八極子の自由度のみを有する非磁性G3二重項である。そのため,これら高次の多極子が絡んだ物性の発現が期待される。私は,T=Irの系において,反強四極子(AFQ)秩序(TQ=0.11K)と超伝導(Tc=0.05K)が共存することを見出し,超伝導対形成に四極子揺らぎが関与している可能性を指摘した。一方,非磁性のLaIr2Zn20はTc=0.6KのBCS超伝導体である。本年度は以下の実験を行った。(1)昨年度までにPr1-xLaxIr2Zn20 (0<x<1)の試料を作製し,電気抵抗率と交流磁化率を測定した。Tcはx<0.5で殆ど上昇せず,x>0.5で上昇する。一方,電気抵抗測定では,TQでの異常をx=0でしか観測できていなかった。そこで,0.06 Kまでの比熱測定装置を立ち上げ,Pr1-xLaxIr2Zn20 (x>0)におけるTcとTQの関係を調べた。比熱測定から,TQはx<0.09で消失することが明らかになった。Tcはx<0.5で変化しないことから,TQとTcの相関は弱いことが示唆される。これらの内容について,国内外の学会で発表し,原著論文として投稿した。(2)PrIr2Zn20の比熱や弾性定数の測定から,TQでAFQ秩序が起こっていることはわかっていたが,その秩序変数についてはまだ明らかになっていなかった.そこで,四極子秩序構造と秩序変数について調べるために,フランス・レオンブリュアン研究所(LLB)において磁場中の中性子回折実験を行った.禁制反射の指数の磁場誘起反強磁性モーメントを観測し,AFQ秩序であることを微視的手法ではじめた確認した。なお,ビームタイムの申請を自ら代表者として行い,7日間のビームタイムを確保した。
1: 当初の計画以上に進展している
Pr1-xLaxIr2Zn20におけるTcとTQのx依存性について明らかにした。電気抵抗測定では,TQでの異常をx=0でしか観測できていなかった。そこで,0.06 Kまでの比熱測定装置を立ち上げ,x>0におけるTQでの比熱異常の観測を試みた。電気抵抗と比熱の測定の結果から,Tcはx<0.5で殆ど変化がないにも関わらず,TQはx<0.09で0.07 K以下に下がることを明らかにした。このTcとTQのLa置換量依存性は,両者の相関が弱いことを示唆している。一方で,PrIr2Zn20とLaIr2Zn20の超伝導特性を比較し,PrIr2Zn20の超伝導対形成において混成効果が重要であることを提案した。これらの内容を原著論文として発表し,国内外の学会で報告した。また,PrIr2Zn20におけるT<TQでの四極子の秩序構造や秩序変数について明らかにするために,LLBで磁場中での中性子回折実験を行った。磁場誘起反強磁性モーメントの観測に成功し,TQでの異常がAFQ秩序であることを確認した。以上のことから,本研究は当初の計画以上に進展していると考える。
これまでの実験では,四極子の秩序構造と秩序変数はまだ同定できていない。本年度は,中性子回折の結果に対する解析を行い,秩序変数を同定する。これらの結果について,国内外の学会で発表し,原著論文を投稿する。また,比熱測定の自動化を進め,効率よく比熱測定できるように更新する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Journal of Alloys and Compounds
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