研究実績の概要 |
4f2配位系の立方晶PrT2Zn20 (T=Ru, Rh, Ir)に着目し、超伝導や非フェルミ液体(NFL)状態におけるPr3+イオンの電気四極子の役割について調べた。この系のPr3+の結晶場基底状態は,四極子と八極子の自由度を有する非磁性二重項である。これまでに,T=Irの系において,反強四極子(AFQ)秩序温度TQ=0.11 K以下で超伝導転移(Tc=0.05K)を示すことを見出し,超伝導対形成に四極子揺らぎが関与している可能性を指摘した。一方,非磁性のLaIr2Zn20はTc=0.6 KのBCS超伝導体である。本年度は以下の実験を行った。 (1)昨年度までに作製したPr1-xLaxIr2Zn20 (0<x<1)を用いて,電気抵抗率、交流磁化率、比熱を測定した。TQはx<0.09で消失することを明らかにした。一方,Tcはx<0.5で殆ど上昇せず,x>0.5で大きく上昇する。La置換に対するTcとTQのx依存性から,両者の相関は弱いことが示唆される。これらの研究成果をまとめてJournal of the Physical Society of Japanに投稿し,2015年5月に出版された。さらに,これまでにRT2Zn20 (R=La, Pr, T=Ru, Rh, Os, Ir)の系で見出した超伝導や四極子秩序、構造相転移に関する成果と今後の展望について,2015年9月の日本物理学会秋季大会で招待講演を行った。 (2)T>TQの比較的広い温度範囲で電気抵抗率と比熱はNFL的挙動を示し,AFQ秩序が消失する磁場5テスラ近傍でフェルミ液体(FL)状態が現れる。このNFLからNLへのクロスオーバーの原因は明らかではないが,四極子自由度と伝導電子の混成効果に起因していると考えられる。これらの特異な物性についての知見を得るために,Znアイソトープで作製した試料を用いたNMRが不可欠である。これまでに,NMRに必要な0.5グラム以上の単結晶を作製するための試料育成条件を確立した。
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