植物の中には、物理的防御や化学的防御に加えて、花外蜜を分泌してアリ類を誘因し、植食者を排除させる生物的防御も備える種がある。アカメガシワは、トリコームによる物理的防御、腺点による化学的防御、花外蜜腺と食物体(脂質の塊)でアリ類を誘引する生物的防御を備えている。植物は、これらの防御形質を植食者による被食や競争者の存在や競争者の遺伝的要因等に応じて、可塑的に投資量を変え、最適な資源配分を行なうと考えられる。これまでの研究により、アカメガシワの各防御形質の発達度合いは、地域の植食者群集やアリ群集の違いに応じて異なっていることが明らかにされている。 本年度はまず、岡山、奄美大島、沖縄本島、石垣島個体群において植食者による食害に応じた各防御形質の可塑性を調査した。その結果、沖縄や石垣島の個体群では、食害による誘導防御能力が低く、岡山や奄美大島個体群では、生物的防御形質や化学的防御形質を誘導することが明らかとなった。また、岡山や奄美大島個体群では、植物体上のアリの存在の有無に応じても誘導する防御を変えていることが示唆された。 次に、競争者の遺伝的要素(血縁度)に応じた各防御形質の可塑性を調査した。その結果、アカメガシワは、競争相手が非血縁者である条件では(非血縁条件)、競争相手が血縁者である条件(血縁条件)に比べて花外蜜の分泌量を増大させることが判明した。また、化学的防御形質のコストのかかり方も、競争相手の血縁度に依存して異なっており、血縁条件下では化学的防御形質の発達は成長量を低下させていたが、非血縁条件では、成長量を低下させていなかった。 以上の成果より、植物は昆虫群集の違いに応じて異なる誘導防御を進化させることが判明した。また、防御形質の発現程度やコストは、近隣個体の血縁度に依存していることが明らかとなった。今後は、植物間相互作用を取り入てた包括的な理解が必要である。
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