本年度の研究では、炭素繊維強化複合材料積層板(CFRP積層板)の斜角入射超音波伝搬特性の解明に向けた実験的および理論的検討を行った。はじめに,一方向強化CFRP積層板の振幅透過スペクトルにおいて透過率が著しく低下する周波数帯(バンドギャップ)に着目し、その発生挙動を理論的に解明した。次に、一回透過法による透過波測定実験において、バンドギャップ発生挙動に及ぼす受信探触子の素子径の影響を考察した。板厚2 mmのCFRP積層板に対して測定した結果、素子径が0.25インチの場合と1インチの場合でバンドギャップ発生挙動に大きな違いは見られなかった。したがって積層板の板厚が数mm程度と比較的薄い場合は、水と積層板の境界における超音波ビームの屈折の影響は非常に小さく、バンドギャップに及ぼす素子径の影響は無視できると考えられる.また、バンドギャップ発生挙動に及ぼす積層構成の影響に関して実験および理論解析による検討を行った。一方向積層、直交積層、擬似等方積層の三種類の積層構成を有するCFRP積層板に対して透過スペクトルを測定した結果、直交積層板および擬似等方積層板において、一方向積層板では見られない複雑なバンドギャップ発生挙動(周波数依存性、入射方向依存性)が見られた。そして、この傾向がスティフネスマトリクス法による理論解析においても良好に再現されることがわかった。 上記研究に加えて、層間に非線形界面を有する積層構造中の高調波発生挙動の理論解析を行った。無限に続く積層構造の各層間界面を非線形スプリング界面でモデル化し、摂動法を用いて二次高調波発生・伝搬挙動の定式化を行った。その結果、二次高調波の発生・伝搬挙動は基本波成分のバンドギャップ発生挙動(周波数依存性)に強く依存し、周期構造中のある点で観測される二次高調波成分にもバンドギャップが形成されることがわかった。
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