有機半導体デバイスは、軽量かつフレキシブル、プリンタブルであるなどの利点から、フレキシブルデバイスやウェアラブルデバイスなどへの応用が指向され、近年盛んに研究が行われている。有機デバイスの性能を決定づけるものは活性層として用いる有機半導体材料であり、より高性能なデバイスや新機能を発揮するデバイスを創成するという観点において、新規な有機半導体材料の開発が注目されている。そのため、新規材料を開発しうる新たな有機合成手法の開発もまた切望されている。 本年度はp型有機トランジスタ材料として高い移動度を示すことを報告しているナフトジカルコゲノフェンおよびアントラジカルコゲノフェンを用いて、新たな有機半導体分子を開発するため、ナフタレン部位・アントラセン部位を化学修飾するための新既反応を開発した。 反応性の高い部位をかさ高いトリイソプロピルシリル基で保護した後、NBSを用いた臭素化反応が位置選択的に進行することを見出した。この臭素化反応はカルコゲン原子が軽原子であるほど選択制がよく、収率も高い。この臭素化体を利用して、さらに共役拡張を行ったNDT誘導体の合成にも成功した。さらに、ADX誘導体に対して、N-フェニルマレイミドを用いたDiels-Alder反応を行うことで環化付加体を合成した。この反応においてもカルコゲン原子が軽減しであるほど収率がよく、O体の場合は定量的に反応が進行した一方、S体はほとんど反応が進行しなかった。環化付加体の薄膜をシリコン基板上に形成し、300 ℃に過熱することで逆Diels-Alder反応が進行し、DPh-ADF薄膜が形成されることを確認した。以上の反応を利用すれば、溶解性の乏しいDPh-ADFを、環化付加体を経由することで溶液プロセスによって薄膜化することが可能である。
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