インジウム砒素量子井戸(InAs QW)への高効率なスピン注入とそのスピン輸送の解析を継続した。試作したNiFe/MgO/InAs QW面内スピンバルブの界面における電気伝導特性は明瞭なトンネル特性を示し、良質な界面が得られていることが分かった。その結果、伝導度ミスマッチの解消により、非局所スピンバルブ信号の解析からInAs QW中のスピン蓄積を実証した。しかしながら、非局所信号測定法において、バイアス電流による非局所電圧信号の大きなオフセットが検出されており、リーク電流によるものとみられていた。そのリーク電流により検出信号と注入電流との間の非局所性に矛盾が発生することで、異方性磁気抵抗(AMR)など強磁性電極中の抵抗変化による信号が非局所信号に含まれている可能性が懸念された。AMRの測定結果からMgOを用いていない試料ではAMR信号が観測されたことに対して、MgOを持つ試料では検出がされなかった。これは、AMR信号が強磁性電極の抵抗変化比で決まるのに対して、MgOトンネル障壁の大きなトンネル抵抗により、相対的にAMR由来の抵抗が小さくなることから説明することができる。これらの結果から、NiFe/MgO/InAs QW面内スピンバルブにおけるスピン蓄積信号の正当性を確認し発表した。(論文発表1) 加え、NiFe/MgO/InAs QW面内スピンバルブにおけるスピン注入効率においての定量的な評価も行った。MgOトンネル障壁によるトンネル抵抗とInAs QWのスピン抵抗ミスマッチの緩和度の評価からおおむねMgOトンネル障壁により0.6から74%までスピン抵抗の整合性が改善されていることが分かった。
|